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3③

 「話がないならさっさと出てってくれないかな?」

 「いや、謝らせてくれ。人の心の痛みが分からないなんて決めつけてごめん。目に障害を持つ和田君になんてことを! 人の心の痛みが分からないのはモエちゃんじゃないの? っておばあちゃんにはさんざん怒られた」

 「それだけ?」

 「童貞と言ったのも悪かった。まさか本当に童貞だとは思わなかったんだ。よく考えたら、童貞なのは全然悪くないよな。女を泣かせたことがないという意味だしな」

 「教師に恨みがあるんだっけ?」

 「高二の二学期に校内で喫煙してるのが見つかって家庭謹慎になってさ、気にしないで謹慎中に友達の家でみんなで酒飲んでSNSにそのときの画像載せたら、誰かに学校に通報されて校長から退学勧告されて退学する羽目になったんだ」

 それで教師を恨むのは逆恨みでは?

 「あたしは高校中退してから三年間ずっとバイト生活の底辺。安定した職に就いてるあんたが妬ましいという気持ちがあったんだと思う。今すぐとは言わないけど、次の短歌の会までに許してほしい」

 次の歌会はちょうど一ヶ月後の五月の第二土曜日。要は静香さんが来月の歌会に出られるように、それまでに僕の許しがほしいということ。

 「僕が許すと言うまで僕の家に来続けるということ?」

 「もちろん」

 それは面倒だけど、今すぐ許すのも癪に障る。

 「家事とかしたら許してくれる?」

 「家事、得意なの?」

 「いや、全然」

 「だろうね」

 ムッとした顔をされたけど、今まで好き放題言われた分の1%も返せてない気がするんですけど。

 「明日の日曜日は空いてる?」

 「なんで?」

 「デートしようぜ」

 「僕ら、つきあってないよね」

 「家族や友達とどっか行くのもデートだろ?」

 デートってそういう意味もあったっけ? 英語教師じゃないからよく分からない。

 「友達とどっか行く予定でも入ってる?」

 「いや、友達いないから」

 言ってから、しまったと思った。恋人どころか友達もいないのかとまた馬鹿にされそうで暗い気持ちになった。

 「じゃあ、あたしがあんたの友達第一号になる!」

 笑われなかったのはいいけど、僕にだって友達を選ぶ権利くらいあるはずだ。気に入らないと殺すぞと脅してくる金髪ヤンキーなんてこっちから願い下げだ。そう思ったのになぜか、いいけどと答えていた。

 「じゃあ、明日正午に車で迎えに来るから待ってて」

 「でも、君、彼氏いるんでしょ。知られたら怒られるよ」

 「なんであたしに彼氏いると思ったの?」

 「だって僕が童貞だって馬鹿にするくらいだから、今まで何人も彼氏がいたんでしょ」

 「童貞を馬鹿にしたからって、軽い女だと思うなよ。あたしは三年つきあって去年の年末に別れた元カレとしか経験ないんだから。経験人数はあんたが0人であたしが1人。1の差なんて誤差の範囲だろ?」

 0と1が誤差の範囲? 99と100なら誤差の範囲と言われても分かるけど。本当のところは数学の先生に聞けば分かるのだろうか?

 とにかく何から何まで僕の常識を超えた意味不明な言い分ばかり。やっぱりヤンキーは嫌いだ――


 それからまもなく彼女は帰っていった。帰り間際、僕のスマホを取り上げて勝手にSNSの友達登録を済ませた上で。

 登録されている僕の友達が彼女以外に僕の両親しかいなかったのを見られたけど、笑われなかったのはよかった。

 激動の一日だった。初対面のヤンキーに童貞だと罵倒されたかと思えば、大人になって初めてできた友達は金髪ヤンキーの少女だった。


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