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10②


 「なんで急に不機嫌になるんだよ!」

 「少しだけほっといてくれないかな。しばらくしたら立ち直ると思うから」

 「あたしが何かしたか?」

 「いや、君は何も悪くない」

 「最悪だ!」

 今日のデートの目的地の一つ、函南(かんなみ)町にあるめんたいパーク伊豆(いず)の駐車場で、僕は胸ぐらを萌さんにつかまれていた。分かってる。悪いのは山田康二だし、僕と出会う前の君の恋愛にケチをつけても仕方ないのに。僕の人としてのキャパが飴玉並みに小さいだけだ。

 そのとき、近くに駐めてある車から殺気のような視線を感じて、僕は戸惑った。その車から降りてきた男女の顔を見て、あっと声が出た。二人は姉弟で、二人とも僕の勤務校の生徒。姉の方は僕のクラスの学級委員だ。

 「先生、そのヤンキーにカツアゲされてるの?」

 「違うよ」

 と答えたけど、胸ぐらをつかまれた状態では説得力がないようだ。

 「カツアゲじゃなければ何なの? 美人局? それともマッチングアプリ詐欺? 先生、絵とか壺とか絶対買っちゃダメだよ」

 それにしても、僕の周囲に気が強い女性が多いのはそういう運命なのだろうか? 彼女はヤンキーの萌さんにまったく言い負けていない。体を使ったケンカになれば柔道部期待の星の弟の出番ということだろう。

 「おまえら、こいつの教え子か。あたしをいったい何だと……」

 「犯罪者。控え目に言って不審者。あんたさあ、早く先生から離れろよ! 先生は授業はちょっとつまらないけどいい先生なんだよ。金髪にへそピアスまでしてるおまえみたいなくそヤンキーとは生きる世界が違うんだよ!」

 胸ぐらから手を離してもらえたけど、苛立った声で萌さんにせかされた。

 「あたしが言っても信用されないんだから、早くおまえが言い返せよ」

 「あ、ああ……。授業つまらなくてごめん。もっとおもしろい授業ができるように授業研究頑張るよ」

 「そうじゃねえ! あたしをかばえと言ってるの!」

 完全にキャパオーバー。何を言っていいか分からなくなって、無意識に萌さんにキスしていた。今までで一番長いキスだったかもしれない。

 「生きる世界が違うと言われたけど、それは困るんだ。僕は萌さんとどちらかが死ぬまで同じ人生を歩んでいくつもりなんだから」

 姉弟はUFOでも見たみたいに言葉を失っていた。一方、萌さんの顔をなぜか涙が滴り落ちていった。

 「やっと名前で呼んでもらえた。いつも君って呼ばれてたのが生徒扱いされてるみたいで本当に嫌だったんだ」

 そして、こらえきれないとばかりに僕の胸に飛び込んだ。

 「シン君、愛してる。あたしは馬鹿だから今までずっと人生を間違えてた。あたしが二度と道を踏み外さないように、いつもあたしのそばにいてときには厳しく叱ってくれ」

 「分かった。でも萌さんだって僕を叱ったっていいんだ」

 ほっといてくれないかなとさっき萌さんを突き放してしまったのは明らかに僕の罪だ。厳しく叱られるべきなのは萌さんでなく、きっと僕の方だ。


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