表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/30

6①


 萌さんに合わせてゆっくり走り続けたせいか、走り終わった直後なのに、真冬の雨の日に走ったときのように僕の体は冷え切っていた。

 一方、彼女にとっては激しい運動だったようで、真夏の熱帯夜のように彼女の顔から汗がとめどなく流れていた。だから風邪を引かせるわけにはいかないし、シャワーを借りたいと頼まれて断ることはしなかった。

 「君の着替えが終わるまで外に出てるよ」

 「脱衣場の戸を閉めれば見えないんだからいればいいだろ」

 「そうだけど、コンプライアンス上どうなんだろ」

 「別にあたしはおまえが見たいというなら見せてもいいけど」

 ヤンキー女に貞操観念はないらしい。心配した僕が馬鹿みたいだ。

 彼女がシャワーを浴びる音を聞きながら、僕は心を無にしていた。僕はたぶん彼女を好きになっている。だからといってもちろんシャワー中に襲ったりはしない。我慢することには慣れているし、自分の気持ちを押し殺すことも子どもの頃から得意だ。

 持ってきた服に着替えた彼女と入れ違いで僕が脱衣所に入った。汗はかいてなかったけど、とにかく冷えた体を温めたかった。シャワーを浴びていると、さっきまで裸の萌さんがここにいたんだなと思い出して不思議な気持ちになる。ただの妄想なのに浴室に裸の彼女の姿がありありと浮かんできて、どれだけ好きになったんだよと苦笑するしかなかった。

 「勇気を出して裸になったのに苦笑いされただけか。やっぱりあたしの片想いだったようだな」

 妄想の彼女がボソリとつぶやいた。手を伸ばして彼女の肩に触れると、ビクッと震えた。えっ、本物?

 「てっきり幻かと……」

 「それはあたしの幻を見るくらいあたしを好きになったということ?」

 事実なので僕が否定できないでいるのを見て、彼女は僕の正面に立ち、背伸びして自分の唇を僕の唇に押し当てた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ