表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/30

4④

 後半が始まった。アスルヴェーラは選手交代が成功し、怒涛の攻撃で相手ゴールを脅かし、相手は防戦一方。ゴール裏の応援のボルテージも上がった。

 まだ四月なのに、スタジアムには真夏のような熱い風が吹いていた。もちろん実際に気温が真夏並みだったわけじゃない。応援する人の熱狂が、そして声援が僕の心を熱くした。長いこと僕の心にあった大きな穴に温かな水が注がれていくような不思議な感覚。

 沼津の誇りと書かれたタオルを高く掲げながら、ときには小さな体でぴょんぴょん飛び跳ねながら必死に歌う君を見ているうちに、僕は今まで無意識にあきらめていた何かを取り戻そうという気持ちにさえなっていた。

 試合は相手のカウンター攻撃で2点を失い、アスルヴェーラは敗北した。後半すぐの波状攻撃で得点できなかったのが響いたようだ。敗色濃厚になってからも、ゴール裏の熱い応援は続いた。試合後も自然発生的にアスルヴェーラコールが応援席から湧き上がり、無意識に僕も叫んでいた。

 アスルヴェーラは今までリーグ18位だったのが、今日の敗戦で最下位の20位に転落したようだ。でも帰りの車内で萌さんは上機嫌だった。

 「シン君の声援があたしまで聞こえたよ」

 「きっと空耳だよ」

 「照れなくていいじゃん。あたしのことは嫌いでいいから、アスルヴェーラは嫌いにならないでね」

 アパートに着くと、明日も来ると萌さんが言った。

 「平日も来るの?」

 「許してもらわないといけないからね」

 「夜来るの?」

 「夜はバイトがあるから朝来る。朝は何時に起きるの?」

 「五時」

 「なんでそんなに早いの?」

 「毎朝走ってるから」

 「スタイルいいと思ったら運動してたんだ。サッカーもすれば?」

 「見るのはいいけど、するのは片目だから無理」

 「そうだったな。ごめん」

 「謝らなくていい」

 「今日はありがとう」

 「僕の方こそ」

 ヤンキーは大嫌いだったはずなのに、萌さんと別れる前から明朝また萌さんがやってくるのを待ち望む気持ちになっていたのが不思議だった。萌さんに気づかれたらやっぱり惚れたんじゃんと馬鹿にされるだろうから、絶対に表情に出ないように気をつけなければ――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ