お嬢様と一緒
朝から弓道部が活動するのはとても珍しいことだ。
なんでこうなったかというと、隣で真剣な顔をして的を見ているお嬢様が大会が決まってから「私達って朝練とかしなくていいのですか?」と純粋な口調で聞いてきたからだ。
自分は朝起きるのは得意じゃないから、今まで朝練なんてやってなかったけどお嬢様がやりたそうに聞いてきたらもうやるしかないのかなと思った。
ぼーっとそんな事を考えていると不意に「バシッ」と音が聞こえた。
弓を下ろして隣を見るとお嬢様が自身の打った矢を見ていた。
そうするとさっきの真剣な顔とは違い年齢と見合っていないような少女みたいな表情をこっちに向けてきた。
「なんで中心にいかないのですの?」
矢を指で刺しながら少し怒っているような気がする。
それでも可愛さが残っているのはお嬢様だからという肩書のおかげなのかもしれない。
「腕の、、、筋肉がだめ、、だから安定して弓をキープだめなんよ、、、」
「なるほど、、、じゃあ私今から筋トレをいたすために着替えてきますので弓を隅の方に置いといてくださいませんか?」
「まかしーて」
お嬢様は本気で勝つつもりで頑張ってる。
まだ初めて1ヶ月も入ってないのにな、、。
お嬢様の弓を弓のケースにしまい、もう一回打つ姿勢に戻る。
真剣に狙ってはいるのに腕がブレて一回も打つ気になれない。
落ち着こうと一度深呼吸をしているとお嬢様が体育着になって更衣室から出てきた。
「まずはストレッチからですわね」
一人、呟いて弓道場の畳の上に座り足を伸ばしたりしている。
自分はそんな頑張っているお嬢様を見入ってしまった。
「舞さん、今日まだ一回も打っていませんけど、どうかなさいました?」
「朝だめ、、、なんよ」
思考はしっかり動いてきたがまだ口は動かない。
目をつぶったら多分このまま寝てしまうぐらい眠い。
「じゃあ舞さんも一緒にストレッチいたしましょ、朝からストレッチは気持ちいと思いますわ」
「する、着替えてくる」
「はい!待ってますわ」
弓を片付け、更衣室に入って体育着に着替えだす。
「やっと口がうごくようになってきた」
ちなみにこんな自分を後輩は朝みていない、何故かというと起きた瞬間に家を出て学校で化粧やヘアアイロンを決めたからだ。
「お腹すいたなー」
朝ご飯はいつも、後輩が作ってくれる。
普段なら朝はこんなゴニョゴニョ言ってる自分は見せたくないので先に自分の身支度をしてからリビングに行くことにしている。
そうすることによって流石に目が冷めてるのであっても何も問題はない。
更衣室のロッカーをしめ、更衣室から出るとお嬢様が伸びていた。
「舞さん!遅いですわ」
「ごめんてー、やろ?」
体を色々な方向に伸ばす。
「そんなんじゃ舞さん、ひまりさんに勝てませんわ」
急に言われてビクッとする。
そういえばそうだった、後輩に負けたらろくでもない事させられるんだった。
てか、、、。
「なんで知ってんの?」
なんでお嬢様が自分と後輩が勝負すること決めたの昨日のことなのになんで知ってるんだろう?
「あ、、えっと、私とひまりさんは友達なんですの、だから昨日おしえてもらいましたわ」
そんなことだろうとは思った。
でもそうなってくると更に聞きたいことがある。
「えっと、まってもしかして、今一緒に住んでることも知ってる?」
「もちろんですわ」
自分が畳に足を開いているとお嬢様が後ろからグーッと押してくる。
自分が「痛い、痛いw」というと少し力を強くする。
口調からはわからないと思うが結構痛いのでまじでやめてほしいがこれぐらいできる関係になったことを示しているようで少し嬉しい気持ちもある。
「ひまりさんと舞さんが一緒にいることは内緒にしといたほうがいいですか?」
「本当に言わないでください」
「わかりましたわw」
まぁお嬢様なら誰にも言わないだろうと信用する。
「どうやったら勝てる思う?」
お嬢様は自分を押すのをやめて、腕を組んで考えてくれた。
「ひまりさんは確か4×100mリレーに出ると言っていて、うちの学校って陸上がとても強いはずですわ」
「じゃあ自分負けちゃうじゃん」
「すぐ諦めないでくださいます?舞さんも強いんですから勝てるかもしれないじゃないですか」
ポカンとした顔をして頭にはてなが浮かんでいるような気がする。
「勝てないよー自信ないし」
「なんですの?ネガティブ思考ですの?」
自分は体を倒す向きを前から右に変えて、もう一回グーッと伸びる。
「そうかも」
軽い口調で言葉を返す。
「舞さんに勝ってもらはないと私が困ってしまいますわ」
「え?なんで?」
そう聞くと「教えてあげましょうか?」と言わんばかりの悪い笑顔を僕に見せてきた。
「その笑顔お嬢様とは思えへんな」
自覚がなかったのか、え?みたいな顔をして自分の頬を触って確認している。
そんな仕草を見ていると後輩の顔がちらつく。
「今日舞さん暇ですか?」
後輩の顔を祓うように頭をブンブン振っていると急にお嬢様が聞いてきた。
「いや、放課後は部活があって、、、」
「それは知ってますわ」
まともな顔して突っ込まれた。
お嬢様って突っ込みとかできたんだ。
「暇だけど、、、」
そう言うとお嬢様はふわっと笑って言った。
「今日私の家にお泊りしませんか?」
延長期間を設けたばかりで申し訳ないという気持ちもあるが自分は気付いたらもう返事をし終わっていた。
「行く」
やっぱり自分は自分の好奇心には勝てない。
家のソファでくつろいでいるとさっきから先輩がバッグに荷物をまとめている。
一瞬出ていくのかなって不安に思っていたこともあったが、それにしてはバッグが小さかったので安堵する。
流石にそろそろかまってもらはないと心が痛むので先輩に声を掛ける。
「どっか行くんですか?」
冗談っぽく軽く、軽く話す。
「あれ?聞いてないの?今日お嬢様の家に泊まってくる」
驚きのあまり鼓膜が破れそうな大声で叫ぶように言った。
「聞いてないんですけど!!!!!!」
「苦情が来るから、だまれ」
先輩の声は聞こえているけれどわざと聞こえてないことにしてまだ音量を変えずそのまま喋る。
「え!?先輩それまじで行ってます?」
「まじ」
すごい不満のこもった顔を先輩に向ける。
「本当にいってます?」
「まじまじ」
えっすっごい嫌だ。
別に束縛をしたい訳じゃないけれどせっかく延長期間を設けて先輩とイチャイチャしようと思ったのに、、。
先輩はそのまま小さな荷物を持って玄関へ向かう。
靴を履き替え、鏡の前で少し前髪をいじっている。
私のことを見向きもせずに先輩が行ってしまいそうだったので1つお願いごとをしてみた。
「先輩、そんなに行きたいなら私にハグしてから行ってください」
どうせやってくれないのだろうと目をつぶって先輩の方に手を広げる。
そうするとなぜだか一瞬だけ体の周りがあったかくなった。
思わず目を開けると、ちいさな先輩が私のことをギュッと腕で覆っている。
「え、、?ちょっ、、」
先輩はそっから手を離してなんとも思ってない顔をしてそのまま「じゃあ行ってくるね」と出かけて行った。
玄関の近くにある鏡を見る。
その中に映る自分と目があって、見たくない事実を強制的に見せられてる気がして嫌になる。
だって鏡の中に映る私がすっごい顔が赤かったから。
「はぁ、、さいあく」
キスと比べたらハグなんてなんてこともないはずなのにな。
「流石に表情保てねぇよ」
せっかくセットした前髪をかけ上げ、赤い顔を隠すように顔を手で覆った。
「僕も結構うぶなんだな」
この顔は絶対誰にも見せれない。
もうキスしてるに、、なんでこんなに顔が赤くなるんだか。