胸がない弓道部員
こいつと同棲?を始めて2日目。
1日目は寝たきりだったからか体調は一気に回復した。
今日は朝から弓道部の練習がある日だ。
大きなバッグを持って出かけようとしていると朝からあいつが大声をだして、玄関にやってきた。
今は12月で真冬なのに上は学校指定の長袖、そのくせ下も学校指定のことには代わりないが短すぎるほどの半ズボンだ。
「何部?」
多分部活の服なんだろうけど、弓道部は学校の隅の方でやるからあまり他の部活は見ない。
運動部?っぽい格好だけど服を見ただけじゃ何部かわからない。
「陸上部です!」
自慢げに両手を腰にあてユニホームを見せてきた。
自分はチラッとだけ見て靴を履き始めた。
「ちょっと先輩ちゃんと見てくださいよ!」
そう言いながらポーズをやめ後輩も靴を履き始めた。
靴を履き終えた自分は家の扉を開けてふわふわと扉を通り家を出た。
校門前でやっと別々になれると思ったら急に後輩は寂しそうな顔をした。
「なに?」
「せんぱーい、もうお別れですか?」
自分の顔を覗き込むように少しかがんで話した。
なんでこいつが自分より大きいんだ。
「家で会えるじゃん」
うるうるした顔に正論をぶつけるとほっぺをぷくーっと膨らませた。
「わかりましたよー」
そういって大きいグランドの方に歩いていった。
「同棲していることは言うなよー!」
ギリギリ自分と、こいつでしか聞こえない声でいうと後輩はこっちを向かずに手を振りながら言った。
「わかってますー」
心配だな。
弓道部の活動場、弓道場のドアを開ける。
「ついたー」
大きな声で疲れを全部体の外に出すように言った。
上履きを脱ぎ荷物を肩からおろした。
どうせ自分しかいないんだから正直どんなことしてもバレはしない。
そう思いながら弓道場の隅の方にスマホとか水筒が入っている袋を置いて弓道場にある小さい更衣室に入った。
更衣室で弓道衣に着替えた。
やっぱり自分って何でも似合うな。
ロッカーに元々来ていた服をつっこみ更衣室を出た。
すると誰もいないはずの弓道場に一人の女の子が弓を打つ構えをしていた。
自分より結構身長が小さくてなんか見たことがある雰囲気だ。
後ろ姿だから誰かはわからなかったが観察していると矢を持つ手を守るための弽と呼ばれる手袋をはめていないことに気づいた。
でも今手袋しろとかいうと変なところに弓が飛びかもしれないので自分は何も言わないとこを選んだ。
そしてその子が放つところを見てから声をかけようとしているといよいよ放すって時に手袋なんかよりもっと大変なことに気づいた。
自分はその子を止めようと口を開いた。
「ちょっとまっ、、、、て、」
その子は声をかける前に打ってしまった。
女子は胸に矢が当たらないように胸当てをしないといけない。
何故かというとシンプルに弓が胸にあたって痛くなる可能性があるからだ。
だから今この子はすっごい痛いはずだ。
「あの、大丈夫ですか?」
自分はそっと話しかけた。
「はい!心配してくれてありがとうございますわ」
「わ?」
「わ!」
お嬢様なのかな?
つい突っ込んでしまったがその前に痛みを確認しないと。
「えっと、、、痛くない?」
そう聞くとキョトンとしたような顔で少し首を傾けた。
「なんでですの?」
「その矢を放つときに胸当てがないと胸に矢があたる可能性が、、、」
そう言いながらお嬢様口調の奴の胸を見た。
自分の視線に気づいたのか、お嬢様は両手を自身の胸の前に持っていき隠して言った。
「それ以上喋ったら殺しますわ」
「ごめんなさい」
にっこり笑顔で言っているはずなのに自分はその笑顔が怖く感じてしまい、その話を閉じた。
というかよく見ると中庭でハンカチを渡したあげた女の子だった。
「そういえば、何しに来たん、、ですか?」
怖いから念の為敬語で話す。
「入部届を出しに来たのですがだれもいなかったもんですから一発打ってみちゃいましたわ」
やっぱり怖い、、多分この人も変な人だ。
色々触れたいことはあったがとりあえず少し喋ってヤバい人というのはわかったのでスルーすることにした。
「なるほど、なるほど」
そのまま続ける。
「じゃあ入部届け出してくれますか?」
自分とお嬢様は床に座ってバックから出てきた入部届を見てみる。
暇だったのか自分の顔をじっと見てきた。
「あなた最近何処かでお会いしましたか?」
自分の目線は入部届を向いたまま言う。
「中庭であったと思います」
そういうとお嬢様はびっくりしたのか声の音量が少し大きくなった。
「なっなんで言ってくれなかったのですのー!」
「いやなんでって別にいっかなと思いまして、、、」
まだ目を合わせたくないためさっきよりもよく、入部届を見るフリをする。
「いやダメですわ、もう一回あったときに感謝をしっかり言いたいと思っていたんですもの」
いやでも十分お礼を言われた気がするだけどな。
「あーね」
いつどうやって部活についての話を始めようかを考える。
そうしていると自分が入部届を見ている時間が我慢できなかったのか急にお嬢様は自分が持っていた入部届を取り上げた。
「あのー、返してほしいのですが」
「なんでですの?私の情報が知りたいなら、私が直接教えて差し上げますわ」 お嬢様は右手伸ばして胸の中心に置き、任してくださいとでも言いたそうなポーズを取った。
「、、、じゃあお願いします」
多分返してくれないので素直にお願いした。
「私の1年2組藤原優衣ですわ、これからよろしくお願いいたしますわ」
そこで一回間ができたので名前を名乗る番なのだと確信した。
「あっ、えっと、菊池舞っていいます2年2組です、よろしくお願いします」
そうやって挨拶するとお嬢様はまたもやびっくりした。
「せ、先輩だったんですか?すいません舐めた口聞いて、本当に」
少し早口だったが簡単に聞き取れるレベルだ。
というかお嬢様口調が簡単に取れたんだけど、どういう事?
「あの、お嬢様口調が取れてますけど、大丈夫?そういやハンカチ渡した時も普通だった気がするんだけど、、」
揚げ足取りみたいなことをしてしまったと気付いたのはそれを言ったあとだった。
「えっと、本当の喋り方はお嬢様口調なんですけどあまり関わりがない人と話すときとかは突っ込まれるのが面倒なので喋り方をこんなふうに戻しているんです」
「でも今日最初からお嬢様口調だった気がするんだけど、、、」
「そりゃこの部活に入るんだったら私と深い関係になるのは決まっていますもの」
「、、、っそっかー!w」
そんな事を言っているお嬢様を見ると何故か少し笑みがもれてしまった。
「そっか、そっか、これからよろしくね、お嬢様w」
そう言いながら立ち上がってお嬢様に手を差し伸べるとお嬢様と呼ばれ一瞬キョトンとしたような顔をしたが笑顔で自分の手を取って立ち上がった。
「よろしくお願いしますわ」
そういって手をもう一回握り直した後にお嬢様は言った。
「そういえば舞さんの他に部員はいないですの?」
周りをキョロキョロしている。
「いない」
その日は部活はお嬢様の部活の見学と手続きで終わった。
キーンコーンカーンコーンと5時30分のチャイムが鳴る。
部活が終わりお嬢様と部室を出た。
このままお嬢様と帰ろうかと思ったがスマホが鳴り一通のメッセージが届いた。
{まいまい!部活終わった?昨日行った通り一緒に帰ろ!}
僕はそのメッセージを見てお嬢様に一緒に帰れないことを伝えようとするとお嬢様も同じ状況だっのか、
「あの」「すいま」とセリフが被った。
「お先にどうぞ」
まぁ多分言うことは変わらないからここお言葉に甘えよう。
「今日一緒に帰れなくなっちゃった、ごめん!」
そう言いながら両手を目の前で合わせた。
「いやいや実は私もですから謝らなくても大丈夫ですわ、今度一緒に帰りましょ!」
「そうだね、えっと次の部活の日は明日の放課後だから、またそこで」
「はい、ではまた!」
そういって自分は家庭科室に向かった。
家庭科室につくと親友の彩花が待っていた。
「もーまいまい、あの日そもまま帰っちゃって心配したからね」
そう言いながらいきなりパンを口の中に突っ込んできた。
「へほんはん?」
「おいし?w」
口の中に突っ込まれたパンを大変そうに食べている自分を見てさっきより顔がニコニコしてる気がする。
気のせいか?
「美味しいよ」
「そうだよね!彩花が作るメロンパンは普通のものより一層美味しいでしょ!」
「ほほまでいっえない」
そんな他愛もない会話をしながら歩き出す。
この親友はホームメイキング部に所属していて、恋バナが大好きな、変な奴でいつも一緒にいるグループの一人だ。
「てかーまいまい聞いてよ、今日ちょーかっこいい人がね、ホームメイキング部に来てくれてね、その人がね、彩花に向かって砂糖ってどこですか?って聞いてきたんだよ!やっぱり彩花のこと好きなのかな?」
少し照れながら言っているこいつを見て長い付き合いだから傷つかない程度の正論をぶつける。
「違うよ?絶対に」
そういうとこっちを向いてぷくーっと顔を膨らませた。
「そんな事わかってるもん」
怒らせてしまったと思う人もいると思うがこれはいつものやり取りだ。
「彩花、怒ったから、レインボーブルーム買ってください」
親友は階段を2個飛ばしで降りていく。
「じゃあいつもの公園よって帰る?」
帰り道に滑り台と砂場とブランコとレインボーブルームが売ってる自販機が設置してある公園がある。
小さい頃はこいつとよくそこで遊んだ。
「しょうがないな〜」
こいつは言ってくることがめちゃくちゃで厨二病だけど結構いい奴だ。
学校の玄関で靴を履き替える。
学校から出る前にふと校庭を見る。
校庭には部活の仲間?と笑い合っている例の後輩がいた。
そんな後輩を見てため息が出た。
「どうした?」
ため息が聞こえたのか彩花がチラッと顔を除いてきた。
これ朝も別の人にされた気がする、、というかお前とは身長差そこまでないから!
内心は理不尽なことでイラつきながら言わないように不満を抑える。
「えーなんでもないよー」
笑顔で言っているはずの自分を見て、自分の手を引いていきなり走り出した。
「おいっ、っちょ、どこ行くの?」
走りながらだから呼吸が乱れる。
「こ!う!え!ん!」
力強く言われてそれ以上は聞かずに走る。
やっとついたと思ったら、ブランコの2つある内の1つに座らせれる。
「座ってて」
そう言って公園の外に行ってしまう。
「えー、、、」
何なんだあいつ。
そう思っているとすぐに戻ってきて自分にジュースを手渡す。
「はい、これ!どうぞ」
自分がジュースを受け取るとブランコのもう一つの席に座った。
ジュースのラベルを見てみるとレインボーブルームいちご味って書いてある。
本当にどこの会社のジュースなのこれ?
自分がジュースに困惑していると隣に座っているやつが喋りだした。
「で、どうしたんだい?」
急に公園につれてこられえて、急にどうしたんだいと言われて流石に混乱は隠せない。
「ん、ん、え?何がですか?」
「いやいやいやいや、そっちの口から言わしたいの!頼ってくださいよー、たまには」
多分こいつはさっきのため息を聞いてなにか悩んでいると勘違いしている。
そうあくまでも勘違いだ。
話をそらしてもいいけど久しぶりに2人で話すし、たまには別に頼ってもいい。
「じゃあ、、、じゃあ、これは別になんかその、、、そういうわけじゃないからね」
「うん!うん!彩花に早くくださいよ」
やっぱりうざいのは変わらない。
「恋ってんだと思う?」
言ってから気付いた、すごい恥ずいことを言っているって。
疲れてんのかな。
急いで撤回しようと隣のやつを見ると真剣な顔をして考えていた。
恥ずかしいけどこいつに関しては多分、今撤回する方が恥ずかしい事に気付いた。
「確かに、恋って何?」
「、、、っ、、」
そう言われた瞬間笑ってしまった。
「あはっははは!それな、恋って何?w」
そうやって答えると彩花は立ち上がってこっちを向いて食い気味で言った。
「そうだよね、そうだよ、恋って、好きって何?本当に」
まだ笑いが止まらなくてまともに会話ができない。
「教えてくださいよ、彩花先生!w」
口元が上がったまま下に下がらない。
そうするともう一度ブランコに座り、またさっきも見た真剣な顔をして少し時間を置いたあと話し始めた。
「呪い何じゃない?」
一言そう言われた。
「どういうとこ?w」
「だからその、恋っていうのは呪いなんじゃない?って思いまして、だって恋したら、多分この人深い関係になりたいって思ったりするわけじゃん?、でも深い関係になるまでに絶対にプラスの気持ちのままなわけないじゃん、でもそんな思いをしてもその人のことが諦めきれなかったり、忘れられなかったり、感情が押しつぶされるまでその人のこと考えるわけじゃん、そんなに辛い思いになっても、それでもその人に人生を捧げちゃうんでしょう、、だから、、恋とは呪いなんじゃないかって思っ、、た」
聞き入っちゃったじゃん。
この答えがあっているのかはわからない。
「え!案外真面目な回答をくれるじゃん?」
「なんか恥っず」
思春期が来ていたらこの質問をしたやつが恥ずかしい思いをするはずだけど、こいつの思考だと回答したほうが恥ずかしいことになってて草。
でも自分的にはありがたいわ。
自分はブランコを少し漕ぎながら言った。
「ありがと、彩花」
「どういたしまして」
最後にそうやって言葉を交わして公園を出た。
しばらく歩くと分かれ道があり、そこでちょうど分かれる。
「また明日!まいまい!」
片手をブンブン降っている。
自分も少し、片手を振って言葉を投げる。
「また明日、彩花」
家までの道のりを一人で歩く。
さっきまで彩花と帰ってたから少し寂しく感じる。
まぁ家に帰ればうるさいやつがいるから別にいっか。
「恋とは呪い、、、ね」
ふと彩花が言っていた事を思い返した。
変な事聞いたのに真剣に答えてくれた彩花に感謝を思いながら考える。
「これからあいつの呪いにかかるかもしれないのか、、、」
少し間をおいて口に出す。
「嫌だー!」
だって自分は自分が一番好きだし。
それよりもなんていうか怪しいんよ。
なんで自分なん?
頭を抱えながら家についた。
明日答えを出さないといけない。
まだうまい断り方は思いついていない。
本当にどうしよっかな〜。
そう考えながら家のドアを開ける。
ガチャっと音を鳴らし、家に入る。
あまり大きくない声で「ただいま」と呟く。
そうすると奥の方から少し小走りでやって来る。
「おかえりなさい!先輩」
満面の笑みで言われて、さっきまで真横に一直線だった口角が少し上がる。
テンション高w。
あーあ、どうやって断ろっかな。