風邪とキスと体温計
アラームの音で目が覚める。
時刻は6時半。
土曜日なのになんでこんな時間にアラームが鳴るんだと言うと部活があるからだ。
具合が悪いというのにいつもよりはっきり目が冷めている。
頭に多少の違和感があったがベットから降り、ドアを開けた。
そうするとリビングに身長が高い一人の女の子がいた。
なんでこいつがいるんだっけ?
昨日の事を思い出す。
「あ〜、、、」
やっぱり思い出さなければよかった。
「おはようございます!先輩!」
笑顔でこっちを向いて話しかけてくる。
いつもどおりの顔を作って挨拶を返そうとすると頭が急に重くなって倒れてしまった。
立ち眩みかな、これ、、、結構やばいかも。
「先輩大丈夫ですか?」
後輩が心配した顔でこっちに近寄ってくる。
大丈夫だよと言葉を返そうとするがなかなか言葉が出てこない。
喋れない。
「先輩ちょっと失礼しますね」
倒れてる僕を支えるようにして昨日と同じように肩を組み部屋のベットまで運ぶ。
自分重いよとか、大丈夫だからとかいつもなら言っているが本当に余裕がないのか口から声がうまく出てこない。
頭を支えてベットに寝かしてくれる。
年下のくせして自分よりかっこいいとかムカつくんだけど。
お腹がグチャグチャする。
「今、気持ち悪かったりします?」
後輩がいつもより音量を落として、聞こえやすいようにか耳元で聞いてくる。
善意からなんだろうが少し耳がくすぐったいからやめてほしい。
「だい、、、っじょ、ぶ」
心配させまいと出た言葉が結局大丈夫だった。
自分の言葉を聞いて後輩は不満そうな顔をこっちに向ける。
大丈夫って言ってんのになんでそんな顔するんだか。
「じゃあ朝ご飯作持ってくるんでなんかあったら読んでくださいね」
優しい声でそう言って立ち上がる。
部屋を出ていこうとする後輩に言った。
「いらない、、、」
そういうと後輩はこっちを振り返ってさっきよりも声を大きくして言った。
「辛くても風邪のときは一口でもいいからご飯は食べないとダメです」
「ほんとうに、、い、らない」
「持ってきますね!」
そう言ってドアをバンっと閉める。
さっきまでの気遣いはどうしたんだか。
朝は部活に行こうと言う気持ちがあったけど今はもうそんな気持ち一切ない。
だってどうせ、あいつが家にいるということは多分出れないもん。
頭が痛くて、よく回らない。
ベットから見えるいつもの景色がぐるぐるしてて気持ち悪い。
これ後で吐くやつじゃん。
息を吸うことで精一杯で他に頭を使う余裕なんてない。
そんな事を思っているとドアがガチャッと鳴った。
目線だけドアの方に向けるとトレーを持って後輩が部屋に入ってきていた。
「な、、に?」
「ご飯です!」
さっき言ってたな。
ていうか本当にいらないというか食べれないんだけど。
後輩は自分のことを寝てる体制から起こして座らせた。
トレーを受け取れるように後輩の方に手を伸ばす。
すると後輩は真顔で「え?何してるんですか?」と言ってきた。
「は?」
トレー持ってきたのは自分にまとめて渡すためじゃねぇの?と疑問を今にでもぶつけたかったが声が出ないから怒りしかぶつけられない。
「あ〜違いますよ」
そんな自分の思いを感じ取ったのか怒りをぶつけただけなのに疑問に合うように会話を返してきた。
まだ出会って2日しか経ってないのによくそんな事できるな。
というか自分にトレー渡さないってじゃあどうやって食べるんだよ。
こいつのせいで疑問がまたできてしまった。
「私が食べさせてあげるんです!」
後輩は胸に手を当て、自信満々なポーズを取った。
「いやだ」
この3文字を言うだけで結構限界を感じる。
「ダメです!先輩は大人しくしててください」
そう言ってトレーの上の皿の上においてある、りんごゼリーをスプーンですくってこっちに差し出した。
普段なら抵抗していたが今はもうそんな元気さえない。
少し躊躇したがもうこいつのを食べるしかないと思い、できるだけ精神ダメージがないように目をつぶって食べようとする。
「あ」
口を開けてゼリーを口の中にいれる。
りんごゼリーはもちろん美味しいがあ〜んされたという事実がその美味しさをかき消してくる。
後輩の方を見るともう次の分をすくってる。
これ何回も繰り返すのは色々まずい気がする。
「もう、、、い、じょぶ」
「いやでもりんごゼリーぐらい食べましょうよー」
「おまえ、ひとくち、いいって、、いった」
そう言うと後輩は歯切れの悪いような顔をしたが残りのりんごゼリーを自身で食べ自分の頭を少し撫でて言った。
「朝はそれでいいんで、昼は体調が少しでも良くなったら食べてくださいね」
優しい顔していたが体が熱くて頭がうまく回らなくて今はもうイライラしか感じない。
後輩がトレーを持って出ていった後ゆっくりと体を横にしてべっとに寝っ転がる。
りんごゼリー美味しかったな。
ふと、ベットの横を見ると後輩が置いていったであろう水が置いてあった。
丁寧にコップにストローが刺してある。
うざいやつだけどそういうところに感謝は感じる。
起きていても具合が悪くて何もできないので目を閉じる。
寝て、楽になれるといいけど。
先輩、りんごゼリーも食べれないか。
ていうか熱測ってない!
先に汗かいてたからパジャマ変えてもらうか?
いやでも昼ご飯も作らないと。
やることが多すぎて頭がいっぱいだ。
次何をしようか考えていると自分のスマホからピロンッと音がなった。
ロック画面を見ると部活の先輩からだった。
{今日、部活来ないのー?}
文章では優し人に見えるが敵に回したら怖いタイプの人だ。
別に後で返信でもよかったがすぐ終わるから今返信することにした。
{すいません!今日は用事があって、、本当にごめんなさい!}
こういう先輩は対応の仕方が2パターンあって、たくさん謝れば許してくるタイプとフレンドリーにあえて反省してないみたいな謝り方で許してくれるタイプがいる。
今私が連絡してる先輩は前方のパターンだ。
舞先輩以外の先輩の好き度は全部同じだがメッセージを送るっていうのに関しては前方のパターンの先輩の方が単純だから連絡しててありがたい。
スマホから新たに連絡が来ていたが次のメッセージは部活に関係ないことに変わっていたので後で連絡するとこにした。
ひとまずご飯作るか。
黒色の胸辺りにnice girlと書かれたエプロンを身につける。
英語はあれだがシンプルでデザイン的には気に入っている。
何作ろっかな〜。
冷蔵庫の中には卵とご飯とネギがある。
「おかゆかな?」
冷蔵庫がおかゆを作れと言っているかのようにそんなものしか入っていない。
「おかゆ作るのは初めてなんだけどな、うまくできるかな?」
不安を感じスマホに手を伸ばす。
クークルで「おかゆ 簡単 作り方」と検索する。
「えー、どれがいいんだ?」
検索した結果たくさんの作り方が出てきてどれがいいのかわからない。
取り敢えず検索候補の一番上に出てきたの物を押した。
「まぁこれなら早く出せるかな?」
自分的に料理は得意な方だと思う。
でも先輩に早く届けて上げたい気持ちもあるため、あまり質にこだわらず、今回は簡単なものを出すことにした。
「まず米を8分煮る、、、米を煮る?」
よくわからなかったが文章といっしょに写真もあったのでその写真通りに材料を動かす。
「8分」
米と水を火にかけ放置しても大丈夫そうだったので新しくコップに水を入れ先輩の様子を見に行く。
コンコンッと軽く先輩の部屋をノックするが反応がない。
え?大丈夫だよね?
心配もあり結局そーっとドアを開ける。
「せんぱーい?」
ドアを開けるとベットの上で先輩が寝ていた。
そんな先輩にキュンキュンしながら私が前においた水を見てみると少し量が減っている。
飲んでくれたんだ。
その事実に少し嬉しさを感じ口元が緩む。
机に新しく持ってきた水を置き、先輩を眺める。
ご飯ができるまでの8分だけだから許してください。
寝ている先輩に許しを請えながら眺めていると気づいたことがある。
それは先輩がとても可愛いということだ。
えー、なんでこんな可愛いのかな?
まつ毛長!髪ふわふわ!
可愛すぎるんですけど。
先輩大好きボルテージMAXになりかけてると台所の方からピピピッと音がなった。
チッと心のなかで舌打ちをしながら先輩の頭を少しなで、水が減ったコップを持って部屋を出た。
クソもう8分かよ。
ご飯の火を止め、卵をいれる。
30秒ぐらいそのまま煮詰めてから橋で卵とご飯を絡めるようにして混ぜる。
いい感じになったらネギを5 mmぐらいの大きさに何回か切ってネギを完成品の上に乗せる。
「結構うまくできたかな」
完成品を見ながらニコニコしていたら先輩の部屋の方からガサッと音がなった。
先輩、、起きたのかな?
おかゆとスプーン、体温計をトレーの上に乗せて先輩の部屋のドアをさっきと同じようにノックする。
そうすると先輩がわざわざドアを開けて出迎えてくれた。
「いやいやいやいや」
私はリビングの机に食べ物が乗ったトレーを置き、先輩を支える。
「起きちゃダメですよー」
「だいじょうぶだから」
さっきよりは体調が良くなったのか喋り方がスラスラしている。
それでも心配だからあまり動かないでほしい。
ひまは先輩をベットに座らせ、おかゆを先輩の部屋に持っていった。
「おかゆ?」
質問する時に先輩は少し首を傾けた。
かわい。
「そうですよー!」
先輩は食べたくないのか嫌そうな顔をしたがトレーをもらうために私の方に手を伸ばした。
これも私が食べさせてあげるつもりだったけど、具合が良くなってきていたので先輩にトレーを渡した。
「ありがと」
先輩はお礼をし、スプーンでおかゆをすくって自身の口に運ぶ。
「、、、っん!」
美味しかったのだろうか。
食べた瞬間先輩は目をキラキラさせておかゆを見た。
そこは私の事みてくださいよ。
おかゆに少しだけ嫉妬心が湧いた。
「あ〜」
おかゆを睨んでいると急にこっちを向いておかゆをすくってあるスプーンをこっちに差し出してきた。
「え?」
何をしたいのかわかってはいたけどあえてわからないふりをする。
「あ!」
やっぱり食べろってことなのかな?
少し目を逸らしたがそれでもやめなので食べることにした。
「、、、、あ」
自分から先輩が持っているスプーンを口の中に入れようとしたら、先輩側に下げられた。
「はえ?」
苦笑いをしながら先輩に向けて疑問の声をぶつける。
「じぶんがいれる」
まじか、、
「くちあけろ」
「はーい、、」
照れちゃうから普段なら嫌がるが風邪の先輩に早く寝てもらうために今回はすぐに先輩に従った。
「ん」
おかゆはたしかに美味しかったが、先輩に食べさせてもらったという事実が味を消してくる。
やっぱり地味に照れるな。
「おいし?」
ニコッとした顔でこっちを向いて聞いてくる。
可愛すぎてもう罪じゃん。
「美味しいです」
先輩と目を合わせずに軽く応える。
「でしょー」
まるで先輩が作ったかのように私の感想に先輩は喜んでいるような顔を見せてくる。
作ったの私なんですけどw。
私におかゆを食わした後おかゆをせっせと食べてる先輩が可愛くて目が離せない。
よかった、うまく作れて。
そんな事を考えながら先輩を見ていると食べ終わったのかトレーごと私の方に差し出してきた。
それを受け取った後出ていこうと思ったけど一つやらないといけないことを思い出した。
「先輩!熱測ってください」
先輩に体温計を渡した。
「わかった」
先輩がパジャマをずらして体温計を刺そうとしたとき下着が見えそうだったのですぐに目を瞑る。
「きのうもそういうはんのうだったけどべつにみてもいいよ」
私は知ってる。
別に女は女に下着を見られることに何も感じないって私は知ってる、知ってるけど。
「好きな人の下着見るのは流石になんで!」
目をさっきよりも強くギュッとつぶった。
そうしたらピピピッと体温計がなった。
「め、あけてもいいよ」
そんな先輩の声が聞こえてたため恐る恐る目を開ける。
先輩は私に体温計を返してきた。
その時、先輩の顔が赤かったのは多分気のせいだと思う。
体温計の表示を確認すると37.5度と表示されていた。
いや、普通にまだ暑いやん。
「全然まだ熱じゃないですか、ちゃんと寝てくださいね」
置いておいたトレーを持ち、先輩の部屋を出ていこうとドアを開ける。
すると先輩は小声で私に向かって言った。
「すぐ戻ってきて」
「え?、、、はーい」
先輩になんかしちゃったかな?
不安を抱えたままトレーをキッチンに置きに行った。
寝るまでやることがなくて思わず言ってしまった。
まぁでも邪魔なだけでうるさくはしないだろう。
いつもなら、起きてすぐなら簡単に寝れるが、ご飯を食べるという運動をしたためすぐに寝ることはできなくなってた。
「まだかな」
寝っ転がりながら少しスマホをいじる。
「メッセージ来てる」
親友の彩花と菜奈、紬からメッセージがきていた。
まず一番メッセージを返しやすい紬のトーク画面を開く。
{舞ちゃん大丈夫?}
{大丈夫だよー、心配してくれてありがと!部活頑張ってね!}
こんな感じでいいでしょ。
次は彩花。
そう思い、紬のトーク画面を閉じて彩花のトーク画面を開く。
いちよ彩花とは長年の中で親友だ。
{大丈夫ですかー?!元気ですかー?!}
メッセージだけでうるさいことがよくわかる文章だ。
{元気だから心配すんな、明日いっしょに帰ろう}
この調子なら明日の部活は行けるから、帰る人を確保しておく。
こいつはこれで終わり、次!
菜奈のトーク画面開いてなんて返すかを考える。
この人がなんだかんだ言って一番面倒臭い。
{マイチー、大丈夫そ?}
{大丈夫ですー!菜奈も部活行ってないけど大丈夫そ?}
さっきよりも何倍も真剣に考えた結果、結局他愛もないような文章になってしまった。
まぁ、、いっか。
風邪の頭で考えても同じような文章しかどうせ出てこない。
じゃあまぁ考えてもしょうがないよね。
すべてのメッセージに返信し終わった後、ちょうど後輩が部屋に入ってきた。
「何かありました?」
「寝れないから話し相手になってもらおうと思ってー」
「寝てください」
正論をぶつけてきた。
「少しだけでいいから」
そう言うと後輩はいつもの純粋そうな笑顔と違い何か企んでるような含み笑いをした。
嫌な予感がする。
「先輩、じゃあこの条件飲んでくれたら一緒にお話してもいいですよ」
「何?」
絶対に飲まないけどいちよ聞いてみる。
ろくな事じゃないと思おうけどね。
「ほら、恋愛漫画でよくあるじゃないですか照れたやつが照れさせたやつの言うことを聞くみたいな」
ほら〜やっぱりろくな事じゃなかった!
「今だけ?」
「いや、私といる間はずっとです!」
笑顔でろくでもないとこ言ってくる。
助けて。
すごい嫌だが心の中の好奇心が反応している。
「いい、、よ」
好奇心がコントロールの主導権を握った。
まぁでも僕が照れることなんてほぼないし、人の下着見て照れてるやつに比べたら多分全然勝てるし大丈夫、、かな?
自分の返事を聞いて後輩は一瞬驚いたような顔をして、いつもの笑顔に戻った。
「いいましたね?」
いやいつもの笑顔じゃないかも。
だってなんかこいつの笑顔何か怖いもん。
「言ったよ?w」
恐怖を隠すために少し笑顔で返す。
自分が後輩の質問に言葉を返した瞬間にドサッと体が倒れた。
いや、倒れたってより押し倒された。
「え?」
2回目だけど、もうこの時点で照れてると思う。
それでも後輩は更に追い打ちをかけるように少し声を低くして言った。
「寝ろ」
思わず顔を逸らした。
別にこいつの事は意識してない。
意識してないけど流石にここまでされたら少しは意識する。
「照れました?w」
後輩は体を起こして、ニヤニヤしながら自分のことを見た。
やばい、すっごいムカつく。
普段ならもうここで諦める。
だけど今は熱で頭がやられているのか、好奇心がまだ主導権を握っているのか諦められる気がしない。
使えない頭を回し、どうすればいいかを一瞬で考えた。
その結果自分は起き上がって、後輩の首元の服を片手で引っ張った。
「ちょっせんぱっ、ん」
キスした。
普段なら絶対にこんな事しない。
これだから使えない頭で考えるとろくなことがない。
後悔してももう遅いけどね。
3秒ぐらい経ってから口を外した。
顔自体は下の方を向いて目線だけ後輩の方に向けた。
後輩は口元を隠すように手で抑えながらイチゴのように真っ赤な顔をしていた。
やっぱりこいつ可愛いよな。
「、、、、っバカ」
絞り出してやっと出た言葉がこれだった。
頭がうまく回らない。
え?キスされた?
まじで?
私、押し倒したよね?
なんでキスできるぐらいの精神力が残ってるんだ?
わからん、わからん。
えー私の負け?ヤダー。
まじか。
「じゃあ自分の言う事聞いて」
押し倒した時の様子とは違い表情はキャピキャピしていた。
復活早すぎない?
「なんですか?」
まぁ約束は守らないとだよね。
私から出した条件だし。
「話し相手になって」
少し上目遣いにして言った。
「じゃあ私もここで昼寝するんで私が寝るまで話しましょ」
さっきと考えが矛盾してるがいくら条件でも素直に先輩のお願いを聞くのは嫌だったから少し私にもメリットが来るようにお願いを装飾する。
先輩は嫌そうな顔をしたが私はお構い無しで先輩と同じベットに入った。
「いや風邪うつるよ」
「キスしてきた人が何言ってるんですか」
そういうと先輩は少し不満そうな顔をした。
私は横を向いて、先輩のことをトントン寝かしつけた。
最初の方は「それやめろ」とか言っていた先輩は3分もすれば寝た。
時刻は20時だ。
寝ている先輩の頭を軽く撫でて、ベットから降り先輩の部屋を出た。
気持ち的にはあのまま寝たかったが流石に皿洗いとか風呂に入らないといけない。
まずは皿洗いだと思い、水につけていた食器に洗剤をつけて擦る。
無意識にさっき起こったことを思いだした。
顔が真っ赤になるような感覚が体を襲った。
この条件出さないほうが良かったかなー。