この世界のこと
「なんでお前家まで来たの?」
後輩は自分の荷物を持ったまま玄関で自身の靴を整えている。
「だって先輩具合悪いんですよね?もうマスターが面倒を見る年じゃないですし一人じゃ寂しいかなーって」
マスター、、、まず自分を含めて子どもが生まれる時には親はいない。
キスして死んだ人のところに子どもが空から降ってきたように急に生まれる、誕生するといわれている。
だから親はいない。
そこで誰が子どもを育てるというと余ったというか愛し合えなかった女、まぁマスター?に拾われる。
マスターに育てて貰えるのは生まれてから〜小6まで自分は約2年前にマスターの元を離れた。
施設から出ても家や生活費などは支給される。
子供からすれば都合がいいシステムだ。
「寂しくないから帰ってくれても大丈夫だよ」
持ってくれていた荷物を部屋の隅に指を指しながら言った。
後輩は自分が指した方に荷物を置いてこっちを向いて話し始めた。
「いやーいいんですか?先輩は色々聞きたいんじゃないですか?」
正直本当にもう帰ってほしいけど関わるのが今日だけで終わるんだったら今日聞いといたほうがいいなと思いそのまま話を聞くことにする。
なんだっけこいつに告白?みたいなことされてるんだったよな。
「そうだね、、、」
疲れが少し声に出ている。
「じゃあそこの椅子に座って」
さっきと同じように次は机らへんを指さした。
そうすると後輩は素早く小走りで椅子に座った。
それに続いて自分も後輩と向かい合うようにして椅子に座った。
後輩はこっちをキラキラした目向いて言った。
「まず何から聞きたいですか?」
聞きたいことは決まってる。
まずは絶対にこれだ。
「殺してくださいってどういうこと?」
聞きたいという気持ちはあったが半分面倒という気持ちがまじったような声になった。
後輩はやっぱりこれかと思ったのかニコニコして話し始めた。
「恋の3rd、キスしたときに死ぬというのは知っていますよね?それでは問題です。なんで好きですってなったのに若いうちにみんな死んでいくと思います?」
確かにそのまま好きな人と好きなことをすればいいのになぜ死んでいくのか。
「わかんないですかー?」
ニヤニヤしながらこっちに問いかけてくる。
そんな表情に少しイライラはするが答えを早く知りたかったため素直に答えた。
「わからんない」
そうやって答えるとニヤニヤしていた顔を普通のニコニコ顔に戻った。
「じゃあ、教えてあげましょう!キスして死ぬとその姿のままその人と一生一緒でいられるという言い伝えがあるんです」
「そんな言い伝え聞いたことないのですが」
「それはそうですよ、この言い伝えは昔のもので今はそんな言い伝えいっさい言われていません」
「じゃあなんで人は早く死ぬの?」
「常識だからですよ」
その言葉を聞いて驚きの声が小さく漏れてしまった。
「先輩が言った通りそんな言い伝え聞いたことがない、でもキスしたら死ぬというのは知っていた、そして女は誰かの特別になるために生きるって事も常識として知っていますよね?、、、結局死ぬために生きているんですよ人って、でもそんなやばい事、メリットとなるこの言い伝えを知らないと普通なら誰もしようと思わないんですよ!怖い話ですよねー」
少しだけ間を置く。
「それで何でしたっけ?殺してくださいって何?みたいな話でしたっけ?」
自分は無言でうなずく。
「それは簡単ですよ、せっき話した恋の3rdキスで殺してほしいんです」
言いたいことは何個かあったがそれらをかみ砕いて一つに厳選する。
「じゃあなんで僕にそれを言ってきた?死にたいならナイフとかで心臓を刺したりすればいいじゃん」
「痛いのは嫌なんですよ!それとどうせなら恋をして死にたいなって思いまして、、入学する前の学校見学の時に先輩を見つけてこの人に殺してもらおうって!」
「なんで自分かっていう所の答えがもう少し具体的にほしいんだけど」
そう聞くと後輩は人差し指を自身の口の前にもってきて言葉をはなった。
「それはないしょです!」
少しウィンクをして顔を少し斜めにしハーフアップの結び目に付けているデカめの白色のリボンが少し見える。
「は?、、」
内心不満でいっぱいだったが今日話しててこいつは多分こういう時、絶対話さないだろうと予測できたので諦めることにした。
でもやっぱりもう少し言いたいことはあったので、さっきの諦めの不満を込めてため息をし自分は話し始めた。
「でもさ好き同士がキスして死ぬんでしょ?流石にお前といっしょには死にたくないんだけど」
そういうと内緒ですと言っていた時のポーズをやめて自分の不満に対しての言葉を返した。
「それは大丈夫ですよ!女同士のキスってキスした側は死なないらしいんで!」
いやいや、そういうあれではないのですが。
自分の語彙力の無さに内心びっくりする。
「それでも好き同士じゃないとキスしても死なないんでしょ?じゃあ無理じゃん」
「何でですか?」
「きっと好きになれないから」
こいつからすると結構絶望的な言葉をズバッと言ったのに笑顔になった。
「今、きっとって言いましたよね?それってまだチャンスがあるかも知らないってことですよね?」
うっざいな、こいつ。
確かにきっととは言ったけど後輩と自分が好き同士になるとは何があろうとありえない思う。
「そうかもねー」
とりあえず適当な相槌をやって頭をフル回転させる。
自分は一生懸命にどうやって断ろうか考えたが今すぐには出てこなかった。
「3日だけ待って欲しいんだけど」
3日でマシな断り方を考えて出来るだけスッと断ろう。
僕はそういう意図を込めて言ったら後輩はしょうがないなーみたいな顔をした。
「その代わりに条件があります!」
ろくなことじゃない気がする。
でもこれを否定しても結局はろくな事になると思う。
「私をその3日間ここに止めてくれませんか?」
ほらーろくなことじゃない。
泊めるの?嫌だよー。
「なんでそうなった?」
純粋な疑問が自然に口から出てきた。
だって人がいるんだから見た目とかにある程度気を使わないといけないんでしょ?
自分風邪だよー、疲れちゃうって。
「え~だって先輩風邪なんですよね?だったら看病する人がいた方がうれしくないですか?」
「くっ、、」
多分こいつ引かないなー。
面倒くさいけどーしょうがない、3日ぐらいなら別にいいだろう。
「わかった、、、いいよ」
そういうと後輩はさっきよりもより一層笑顔になった。
「そういえば名前は?」
告白してきて名前名乗らないってすごいな。
てか自分もよくここまで気づかなかったな。
「え~名前ですか?ちなみに先輩の名前はなんですか?」
急に告ってきたくせに知らなかったんだ。
「自分は菊池舞後輩は?」
心の中でずっと後輩、後輩って呼んでたから口に出てしまった。
「私の名前はですね、鎌田日葵っていいます、この3日間よろしくお願いします!先輩!」
ひまりね。
「なんて呼んだらいい?」
「えーっと、このまま後輩でいいですよ、私その呼び方気に入ったので」
「わかった」
自分は返事をし椅子から立ち上がって洗面所にあるパジャマを取りに行こうとした。
だけど結構具合が悪かったみたいでまた倒れそうになった。
すると後輩は椅子から立ち上がり、倒れそうになった自分を支えそのまま腕を後輩の肩にもってこさせ腕を組むような状態になった。
「先輩、先輩の寝る部屋はどこですか?」
そう問いかけられた。
「あっち」
僕は何個かある部屋の一つを見ながら言った。
それを後輩は理解し歩くのが遅い自分のテンポに合わせて運び、ベットに座らせた。
「パジャマはどこですか?」
「せんめんじょ」
そういうと後輩は自分のことを気にしながら洗面所に走っていた。
体調不良が進んできた。
明日、弓道部の活動があるのに。
ドタドタと足音を立てながら部屋に戻ってきた。
「先輩!パジャマ取ってきましたよ!」
「ありがと」
自分は後輩が持ってきたパジャマを片手で受け取ろうとしたが渡してもらえない。
「よこせ」
そういうと後輩は口元をニヤっとさせて口を開いた。
「先輩って今、具合悪いんですよね?」
やばいどうしよう。
すごっく嫌な予感がする。
「私が着替えさせて上げましょうか?」
やっぱり泊める条件なんて飲まなければよかった。
「いやだ」
「私もいやです。いいんですか?早く寝たほうがいいですよ」
こいつ、わかってるなら普通によこしてくれればいいのに。
面倒くさい。
「じゃあ、やって」
自分は自分の目の前に立っていた後輩に向けて手を開いて言った。
そうする後輩は予想外だったのか顔を少し赤くしてパジャマを自分に素早く渡した。
「私、次先輩が起きたときのご飯を作ってくるので非常に残念ですが今回はごめんなさい」
すごい早口で喋りだし、その後速攻でこの部屋を出ていった。
その反応をみてあいつみたいに少し口元がニヤけてしまった。
自分は後輩が出て行ったドアの方を少し見ながら言った。
「ばーか」