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17.絵師は胸を張る

 そして、翌日の放課後、講堂。

 大勢の生徒が見守る中で、凛空と桜庭部長の対戦式コンテストが実施された。

 種目は、ライブドローイング。

 壇上にふたつの席が設けられ、それぞれにふたりの対戦者が腰を下ろした。そして手元のPC画面は壇上のスクリーンにリアルタイムで投影され、ふたりがイラストを描いてゆく過程がそのまま映し出される。

 当初、講堂内の雰囲気は桜庭部長の圧勝ばかりに期待が寄せられ、凛空を応援する声は磨鈴や美都奈、或いは旧デジタルイラスト研究会の面々のみという完全なアウェーの中での対戦だった。

 ところが――。


「おい、何だよあれ、めちゃめちゃ早いし、上手いじゃん……」

「っていうか、下書きも何も無しで、あんなに描けるもんなの?」


 ギャラリーの生徒の間から、凛空が披露した圧倒的な速さと正確さを誇る描画技術に、次々と驚きの声が上がり始めた。

 最初のうちは余裕の表情を浮かべていた桜庭部長も、凛空がいきなりアタリどころかラフや下書きすらも無しに主線から描き始めたことに相当な驚きを示していた。


(僕が今までに、何百回も何千回も積み重ねてきた技術だからね……)


 凛空は開始数分の時点で、既に全身図の主線をほぼ描き終えていた。

 対する桜庭部長は、まだやっとアタリを取り終えて、これから漸くラフに入ろうという段階だった。

 凛空の後方に設けられた関係者席では、磨鈴が唖然とした表情でスクリーンを見つめている。恐らく彼女も、凛空の描画技術を直接見るのはこれが初めてだろう。


(プロとしては少し大人げないかもだけど……僕はまだ高校一年生だから、そこは勘弁して貰おうかな)


 やがて、規程の30分が経過した。

 桜庭部長側のスクリーンは、まだやっと下書きを途中まで終えたところで、主線すら入っていない。

 一方の凛空は主線は全て描き終え、色も置いてある。更に各色には一影と二影まで施し終え、更にはぼかしなどの効果まで入れ終えていた。

 イラストとしての完成度、正確性、そして描画の速さのいずれに於いても、凛空の圧勝だった。

 講堂内は桜庭部長の惨敗に対する驚きと、凛空が完成させたイラストの美麗さへの賞賛が入り混じり、ちょっとした大騒ぎとなっていた。

 結果は勿論、凛空の勝利。

 すると、磨鈴が物凄い勢いで駆け寄ってきて、凛空の小柄な体躯に力一杯抱き着いてきた。


「わ……ちょ、ちょっと、帝塚さん……?」

「南城くん……ありがとう……きみは……本当に、凄いんだね」


 更にその周囲には美都奈や旧デジタルイラスト研究会の面々も歩を寄せてきて、歓喜の輪が出来ていた。


「御免よ南城クン。正直、キミがここまで出来る奴だなんて思ってなかったよ」


 田嶋元会長からの賛美に、凛空は頭を掻いた。

 プロなのだから上手いのは当然なのだが、こうして改めて褒められると流石にこそばゆい気分だった。


「南城、マジでスゴかったって! ウチ、ちょっと感動した!」


 美都奈が盛大にはしゃいでいる。彼女はそのうち、磨鈴と手を取り合ってぴょんぴょんとその場で跳ねる様な勢いを見せていた。

 と、そこへ桜庭部長が諦めた様な笑顔を浮かべてゆっくりと歩を寄せてきた。

 彼が差し出した手を、凛空ははにかんだ笑みを浮かべながら握り返す。


「いや……まさか君がここまでやるなんてね……上には上が居る。良い戒めになったよ」


 桜庭部長は苦笑を滲ませながら、小さくかぶりを振った。

 が、その直後には幾分真面目な表情を浮かべて、正面から凛空の顔を覗き込んできた。


「ところで、実はこの学校じゃあ部活と同好会は兼部が可能なんだ……もし気が向いたら、一度漫研にも遊びに来てくれないか。君程の実力者なら、うちはいつでも大歓迎だ」


 その申し入れに対し、最初に反応したのは磨鈴だった。彼女は後ろから凛空をぎゅうっと抱き締める様な形でしがみつき、警戒の視線を桜庭部長の面にぶつけていた。


「駄目です。南城くんは、渡しません」


 その磨鈴の仕草と、少し怒った様な美貌に、誰もが驚いていた。

 あの鉄仮面の鋼の姫が、こんなにも表情豊かに己の気持ちを面に出すなど、今までほとんど誰も見たことが無かったからだろう。

 そして、そんな彼女にこれだけの変化をもたらしたのが、この小柄な陰キャ少年であることは、誰の目から見ても明らかだった。


◆ ◇ ◆


 ゴールデンウィークに突入し、凛空は高校に入って最初の大型連休を迎えた。

 その初日、彼は駅近のショッピングモールへと足を運んでいた。

 今日はデジタルイラストを制作する為の諸々のツールや機器を見て廻る予定だった。

 そして凛空の傍らには、若干ボーイッシュな装いの磨鈴の姿があった。


「今日は宜しくね、南城くん」

「あ、はい、こちらこそ……」


 実はこの日は、磨鈴に頼まれて彼女に同行するのが主な目的だった。

 凛空に、自宅でデジタルイラストを制作する為の諸々一式を見繕って欲しいというのが、磨鈴からの依頼だった。


(前だったら、こんなとこを誰かに見られたらヤバいって思ってたかも知れないけど……)


 しかし、今は違う。

 凛空は胸を張って、磨鈴と肩を並べた。

 あれ程に高校生活に恐怖を抱いていた少年の姿は、もうどこにも無かった。

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