14.絵師は満喫する
そして、遠足当日。
凛空は磨鈴や美都奈と同じ班のメンバーとして貸し切りバスの最後列付近に席を取り、かねてより計画していた通りにブラッドスローン最新イベントをチームプレイで遊ぶ運びとなった。
「よぉーし、んじゃあ皆、頑張ろーねー」
コミュニケーション上級者の美都奈が音頭を取り、皆で一斉にスマートフォンを手に取ってログイン。
彼女の陽キャぶりは見事なリーダーシップを発揮し、他の五人を上手くコントロールしてくれた。
そしてゲーム内の戦術参謀は凛空が務める。
彼はこのメンバーの中では誰よりもブラッドスローンに詳しく、様々なイベントデータを全て頭の中に叩き込んでいた。
司令塔の美都奈、参謀役の凛空というふたりのツートップで、班のメンバー全員が面白い程スムーズにイベントを進めてゆく。
「あ……何か出たね」
「それ、今回のイベント限定のレアキャラですよ」
磨鈴がメンバーの中でいち早くお宝をゲットすると、他の面々もより一層気合を入れてゲームに臨んだ。
その一体感は傍から見ていても恐ろしい程に際立っていたらしく、後で亮輔や由貴などが、物凄く盛り上がっていた様に見えたと羨ましそうに語っていた。
「南城~、昼休憩の後もちょっと攻略進めようぜ~」
「やっぱ南城、すげぇーよなぁー。頼りになるわー」
同じ班のクラスメイト男子からは、度々そんな声が聞こえてきた。彼らとは入学式以来、ほとんど会話らしい会話はしたことは無かったのだが、今回の遠足で相当気持ちが通じ合った様な気がした。
それもこれも、全て美都奈がお膳立てしてくれたお陰だった。
彼女が凛空を班に誘ってくれなかったら、きっとこの遠足は非常につまらない灰色の記憶と化していたことだろう。
(紅林さんには、いつかちゃんとお礼しなきゃいけないな……)
そんなことを考えながらも、凛空は皆と共に遠足を心から楽しんだ。
普段はあの鉄仮面の磨鈴でさえ、時折表情を緩める場面が何度かあった。
「あれ? もしかして帝塚っち、さっきちょっと笑ってなかった?」
美都奈が声をひそめて、信じられないといわんばかりの表情で凛空に問いかけてくることもあった。
凛空自身は既に何度か磨鈴の笑顔を見たことがあったが、こうして皆が居る前で彼女が笑みを浮かべるところを見るのは、この日が初めてだった。
「本人の前では、あんまり、いわない方が、良いかも、ですよ。多分、いったら、照れちゃうかも……」
「あー、何かわかるー。だよね、だよね。ウチ、何も見なかったことにするー」
美都奈の応えに凛空はほっと胸を撫で下ろすと同時に、彼女の優しさにも心の内で感心した。
正直なところ、美都奈はその場のノリと勢いで行動する傾向がある様に思えた。が、実際にはしっかり空気を読んで、相手のことも考えながら行動するタイプだということが分かってきた。
見た目や雰囲気で相手の第一印象を即座に決めてしまうところはあるが、それは美都奈に限った話ではなく、大体の人間がそういうものだろう。
かつて席替えの際に、彼女が凛空の敵に廻りかけたこともあったが、あれも結局は陰キャなぼっちという印象を凛空自らが与えてしまっていたことにも問題がある。
そういう意味では、凛空も美都奈を責めることは出来ないと思い始めていた。
ところが――。
「御免ね、南城」
たまたま凛空が美都奈とふたりで自販機へと足を運んでいた最中、不意に美都奈が神妙な面持ちでぽつりと呟く様に、そんなひと言を投げかけてきた。
「え、何が……?」
「……ほら、ウチさぁ、席替えん時にさ、南城に、他の席に替わってやれば、みたいな空気、出してたじゃん。あれって、ホント悪いことしちゃったなって、ずっと引きずってたんだよね」
美都奈はオレンジブラウンのロングウェーブヘアを揺らしながら、頭を掻いた。
「南城ってこんなにイイ奴なのにさ、ホント、ウチ何やってんだろーねーって、そんなこと思っちゃって」
そこまでいい切って、美都奈は脚を止めた。そしてぺこりと頭を下げる。
「だから、今更だけど、謝らせて欲しいなって思って……ホント、御免なさい」
「あ、いや、もう良いですって。それに紅林さん、今まで色々助けてくれてますし、もうそれで十分チャラってことで……」
すると美都奈は端正な面を上げて、目と鼻の先にまでその美貌をずいっと寄せてきた。
いきなりの急接近に、凛空は驚いて飛び退きそうになってしまった。
「じゃ、ひとつお願いしてイイ?」
美都奈はいいながらスマートフォンを取り出した。
「ライン、交換しようよ。南城って、もう帝塚っちと交換してんだよね? だったらウチとも交換しても良さげなカンジだよね?」
まさかの申し出に戸惑いを隠せなかった凛空だが、しかし悪い気はしなかった。
それにしても、予想もしていなかった展開の連続だった。磨鈴のみならず、美都奈からもこうしてラインID交換を求められるなど、一体何をどうすれば予見出来ただろうか。
凛空は不思議な縁を感じつつも、自身のスマートフォンを取り出して交換に応じた。
無事に凛空のラインIDをゲットした美都奈は、本当に嬉しそうな笑みを浮かべた。
「これからは、一杯お話しよーね」
「あ、はい、どうぞ、宜しくお願いします」
陽キャな美少女との個人的な繋がりを、生まれて初めて持つことが出来た。
今日のこの遠足は、もうそれだけでも十分な成果を叩き出したといえるのではないだろうか。
「後で、帝塚っちも入れてグループチャット組もうね~」
美都奈の提案なら、きっと磨鈴も受け入れてくれるだろう。
本当に、実り多き一日だった。
◆ ◇ ◆
帰りのバス車内で、凛空は磨鈴と隣同士のシートに腰を落ち着けた。
「南城くん……明日からイラストの練習、付き合ってくれる?」
楽しさの余韻に浸っていた凛空だったが、磨鈴からのこの真剣な申し入れに対しては思わず表情を引き締めてしまった。
漫画研究部との対戦式コンテストに備えて、磨鈴も本格的に絵の技術を向上させたいと思っているらしい。
今回の制作物は基本的には先輩の三人が手掛けることになるのだろうが、彼女は何かの形で役に立ちたいと考えているに違いない。
きっと磨鈴は、自分の居場所を守りたいと強く願っているのだろう。
「……はい、僕に出来ることなら、どんなことでも」
凛空は力強く頷き返した。
戦いは、既に始まっていた。




