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13.絵師は心惹かれる

 遠足を二日後に控えた月曜の放課後。

 凛空と磨鈴がいつもの様にPC作業室へ足を運ぶと、室内から田嶋会長の幾分興奮気味な声が漏れ聞こえてきた。

 一体何事かと思いながら扉を開けると、見知らぬ顔ぶれがデジタルイラスト研究会の三人の先輩達と対峙する格好で佇んでいる場面に遭遇した。


「おや……噂の新入生達か」


 田嶋会長と向かい合う位置に居た上級生と思しき青年が、朗らかな笑顔で振り向いた。彼は田嶋会長が何かをいうよりも先に、磨鈴のもとへと足早に歩を寄せてきた。


「君が鋼の姫だね。俺は桜庭健治(さくらばけんじ)。漫画研究部の部長をやらせて貰っている」


 次いで彼は、凛空にも会釈を送ってからPC作業室内をぐるりと見渡した。

 その他の見知らぬ来訪者は、いずれも漫画研究部の部員らしい。ということは、桜庭部長と一緒にPC作業室まで足を運んできたことになるのだろうか。

 しかし田嶋会長の様子が少しおかしい。彼はそのよく太った面に、怒気を滲ませている様に見えた。

 凛空は事態が呑み込めないものの、余り場の空気を刺激してはならぬと咄嗟に判断した。


「えぇと……もしお取込み中なら、今日はお(いとま)させて頂きましょうか」


 磨鈴も凛空に倣って、同様の台詞を発した。

 すると桜庭会長は、その必要は無いと小さく肩を竦めた。


「うちからの申し入れ内容は、田嶋にはもう伝えてある。今日のところはこれ以上の用件も無いから、失礼させて貰うよ」


 それだけいい残して、桜庭部長は他の漫画研究部員らと共にPC作業室を辞していった。

 去ってゆく桜庭部長らをしばし見送っていた凛空は、尚も興奮冷めやらぬといった感じ田嶋会長に、何があったのかと訊いた。

 これに対して答えたのは、杏奈だった。


「ん~……ちょっと拙いことになっちゃってね」


 曰く、漫画研究部がデジタルイラスト研究会に対し、このPC作業室を明け渡す様にと要望してきたのだという。

 何故そんな話が飛び出してきたのか――凛空には今ひとつ、ピンと来なかった。


「元々ね……デジタルイラスト研究会は漫研から独立して誕生した同好会なのよ」

「独立?」


 何となく、きな臭い空気になってきたのを感じた凛空。

 すると漸く落ち着きを取り戻した様子の田嶋会長がパイプ椅子にその大きな体を預けながら、深い溜息を漏らして杏奈の言葉を引き継いだ。


「ボクら三人はストーリーを作るのがどうにも苦手でね。でも絵は描きたい……そのことについて桜庭とは何度も話し合いを重ねたんだけど、結局折り合いがつかなくてね。それで結局、ボクら三人は漫研を退部した上で、新たにデジタルイラスト研究会を立ち上げたんだよ」


 方向性の違いで袂を分かったという訳か。

 組織にはよくありがちな話であろう。

 ともあれ、独立した田嶋会長らは新たにデジタルイラスト研究会を発足させ、漫画研究部の顧問ともしっかり話し合った上で、このPC作業室を研究会活動場所として勝ち取ることが出来たらしい。

 ところがどういう訳か、今になって漫画研究部がPC作業室を明け渡せと迫ってきたのだという。

 あちら側のいい分としては、今年になって部員が急増し、部室棟の専用部室だけでは部員の活動場所確保が難しくなってきたから、このPC作業室を明け渡して欲しいということだった。

 かつてはこのPC作業室も漫画研究部の部室の一部として活用されており、本来の使用権は漫画研究部にあるという話だった。

 しかも同好会は部活程の優先権が認められていない為、漫画研究部がPC作業室を返して欲しいといってきた場合には、基本的には明け渡すのが筋なのだろう。


「でもここは、漫研顧問の先生からもボク達が優先的に使って良いっていう許可を貰ってるんだ。傍から見ればボク達が駄々をこねている様にも見えるかもだけど、部員が増えたからといって今更反故にする様なこといってくるのは、ちょっとどうかと思うんだよね」


 つまり、双方それぞれにいい分があり、そう簡単にはお互い譲れないといったところであろうか。

 尚、漫画研究部の顧問である美術教諭はここ一週間程、体調不良で休みを取っているらしい。

 となると、今回の問題は生徒同士で決着まで持っていくべき事案の様にも思える。


「けど、このままだと平行線なんだよ……だから、桜庭くんは対戦式コンテストを提案してきたんだ」


 飯塚副会長が渋い表情で腕を組んだ。

 対戦式コンテストというのはK高校独自の決着システムで、校内の個人や団体、組織が利益を争う場合、全校生徒に対してどちらが優れているのかをジャッジして貰い、勝った方が権利を主張することが出来る様になるというシステムだ。

 いうなれば、決闘裁判の様な物だ。

 そして今回桜庭部長が申し入れてきたのは、イラスト技術で優劣を競い合おうという話だったという。

 漫画研究部かデジタルイラスト研究会の、どちらのイラスト技術がより優れているのかを全校生徒にジャッジして貰い、勝った方がPC作業室の使用権を得るというものだった。

 要は、優れた技術を持つ部、若しくは同好会にこそ、活動場所が与えられるべきだという論法らしい。


「それを、お受けになさるんですか?」

「……やるしかないだろうね。ボク達の技術の高さを皆に認めて貰って、正式にこのPC作業室の使用権

を勝ち取るんだ。そうすりゃ、桜庭達も文句はいえないだろう」


 勝負の方法は単純である。

 漫画研究部とデジタルイラスト研究会、それぞれ三枚ずつのイラストを期日までに仕上げ、それらを校内のソーシャルネットワーク上で発表した上でどちらが優れているのか投票して貰おうという訳だ。

 但し、ひとつ問題があるという。

 桜庭部長は、どうやらブラッドスローンの二次創作同人誌ではそれなりに有名なアマチュア漫画家らしく、同人誌即売会でも長蛇の列が出来る程の実力者なのだという。


(へぇ~……どんなのか、ちょっと見てみたいかも)


 立場上は凛空の敵、ということになるのだろうが、桜庭部長が作った同人誌を一度見てみたいと思ったのは、矢張り公式クリエイターの悲しい(さが)といったところだろうか。

 正直、かなり心惹かれる部分もあった。


「彼らがここを寄越せといって来たのは、多分、帝塚さんを漫研に取り込みたいからだろうね」


 飯塚副会長が、中々のっぴきならない台詞を発した。

 漫画研究部としては鋼の姫をデジタルイラスト研究会から強奪することで、そのブランド力に箔をつけたいという思惑があるのかも知れない。


(それは……ちょっと、やり方が拙いんじゃないかな)


 凛空は内心で渋い表情。

 ブラッドスローンの二次創作者を応援したい気分も無くはなかったが、やり方が宜しくない。

 何より磨鈴が、


「わたしは漫研よりも、ここでデジタルイラストの練習を重ねたいです」


 との意思を示している。

 凛空としても、磨鈴が興味を持たない部活に無理矢理連れて行かれるのは、放ってはおけなかった。

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