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12.絵師は脅される

 遠足の班メンバーは、思わぬ形で決定した。

 が、波乱はまだ終わらなかった。

 磨鈴は自身のスマートフォンを取り出すと、隣席の凛空に向けて、さも当然の如く差し出してきた。

 周囲のクラスメイトらは、その仕草だけでも一斉に色めき立った。校内屈指の超絶美少女が何故、陰キャなぼっちのモブ野郎にそんなことをするのか、と。

 これに対し凛空は、磨鈴から何を求められているのかがまるで理解出来ず、半ば呆けた表情で彼女のスマートフォンをじっと凝視した。


「ほら、南城くん。交換」

「え? いや、ラインならもう先日、交換したんじゃ……」


 と、ここで凛空は慌てて口をつぐんだ。

 周囲から浴びせられる嫉妬と怨嗟の視線が、尋常ではなかったからだ。


「おい……南城、何でオマエが、帝塚とラインのID交換してんだよ……」


 亮輔がそれらの怨念を代表するかの様に、地の底から響いてきそうな唸りを浴びせかけてきた。

 拙い――凛空は、つい何気なくポロっと漏らしてしまった己の迂闊さを呪った。

 高嶺の花である磨鈴のラインIDなど、そう簡単にゲット出来るものではない。それを何故、凛空如きが当たり前の様に持っているのか。

 こうなることが分かっていたから今まで必死に隠してきたというのに、磨鈴が差し出してきたスマートフォンに疑念を抱いた瞬間、その警戒心がほんの一瞬だけ緩んでしまった。

 ところが磨鈴はいつもの能面の如き無表情で、凛空の代わりに低く答えた。


「どうしても何も、わたしが南城くんにお願いしたの」

「え……何でなんだよ。何でオマエの方から南城なんかに……」


 尚も食い下がる亮輔。この時、磨鈴はほんの一瞬だけ瞳の奥に若干の苛立ちを滲ませた様にも思えた。


「必要だったからよ。南城くんとはちょっと用事があって、ラインのID交換がどうしても必要になっただけ。それがどうかした?」

「いや、だってオマエ、クラスのグループチャットにも入ってねぇのに……」


 依然としてぶつぶつ漏らしている亮輔だったが、磨鈴に必要な措置だったからだといい切られてしまっては、流石にそれ以上の抗議は不可能だと悟った様であった。

 一方の磨鈴。

 相変わらずスマートフォンを凛空に向けて差し出したまま、いつもの無表情な美貌を更に迫らせてきた。


「ラインじゃなくて、ブラスロのフレンド登録。わたし達、まだしてなかったでしょ?」

「あ……あぁ、そういえば、そうでしたね……」


 何となく居心地の悪さを感じながら、凛空はフレンド登録に応じた。しかしこのままでは、再び嫉妬の集中砲火を浴びることとなる。

 ここは回避策が必要だった。


「あの、それじゃあ、紅林さんとかも、フレンド登録しておいた方が、良いですね。じゃないと、チームプレイとか出来ないですし」

「それもそうね。じゃあ紅林さんも、お願い出来るかしら?」


 磨鈴が面を向けると、美都奈は凄く嬉しそうな面持ちで自らのスマートフォンを磨鈴に向けた。


「わー、やったー。ってか、ウチが帝塚っちと繋がるのって、これが初めてじゃない?」


 図らずもこの様な形で磨鈴との連絡手段が確保出来たことに、美都奈は随分と満足そうな表情を浮かべた。

 更に磨鈴は、残りの班メンバー三人ともフレンド登録を進めていった。この三人に至っては、もう感激の極みにある様子だった。


「てかさー、帝塚っち。ついでだからラインも交換しとこーよ。ブラスロの話とかさー、女子同士で色々やりたいじゃん?」

「ええ、良いわよ」


 磨鈴からの応えを受けて、美都奈は更に大はしゃぎだった。

 逆に亮輔や由貴は、物凄く羨ましそうな視線を美都奈にぶつけている。

 凛空に対してはただ嫉妬や怒りの念を叩きつけるばかりだったが、同じ陽キャのギャル美少女ともなれば、流石にその様な負の感情を向けるのは如何なものかといったところか。

 しかし、凛空はそんな差別的な扱いを受けたことよりも、磨鈴と美都奈がブラッドスローンを切っ掛けとして更に交友を深めることが出来たのが嬉しかった。

 友達同士の新たな絆の誕生、そこに自分の仕事が少しでも関わることが出来たのは、クリエイターのひとりとしては非常に喜ばしい限りだ。

 そうして、何かと想定外の事象が多かった六限目のロングホームルームも終了し、放課後を迎えた。

 凛空は磨鈴と共にPC作業室へと足を運んだが、この日の磨鈴はイラスト制作の練習ではなく、ブラッドスローンの協力プレイをやりたいと申し入れてきた。


「さっき、難易度Aのレイドイベントが始まったわ。南城くん、付き合ってくれる?」

「え、でも、イラストの練習は、良いんですか?」


 一応ここは、デジタルイラスト研究会だ。

 田嶋会長も飯塚副会長も、磨鈴がゲームで遊ぶのは別に問題無いと黙認している様だが、流石に凛空まで一緒になって遊ぶのは何となく気が引けた。


「良いから、付き合ってくれる?」


 磨鈴は頑として引かない。

 すると杏奈が、


「まぁ、一日ぐらいは良いんじゃない?」


 と苦笑を漏らして、凛空にも許可を出してくれた。

 先輩三人から太鼓判を押して貰えた為か、磨鈴は更に圧をかけてきた。もうほとんど脅迫といっても良いかも知れない。


「ほら、南城くん。スマホ出して」

「え……えー? マジですか……」


 何故ここまで強硬に、凛空との協力プレイを求めてくるのか。一体何が彼女にそこまでさせるのか。


「……南城くんとの協力プレイが一番上手いのは、わたし以外にあり得ないから」

「え? 今何か、おっしゃいましたか?」


 ぼそりと呟いた磨鈴に、凛空は何事かと問い返した。

 しかし彼女はそれ以上は何もいわず、凛空との協力プレイに没頭し始めた。

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