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11.絵師は頼られる

 来週には、遠足がある。

 行き先は隣県のテーマパークらしい。週末や祝日には大勢の客で賑わうが、遠足当日は平日ということもあってか、然程の混雑に遭うことも無く、それなりに楽しむことが出来るだろうというのが担任教師からの説明だった。

 しかし凛空は、正直なところどうでも良かった。

 この遠足には6人ひと組で班を構成することが義務付けられているのだが、どうせ自分は最後の最後まで誰からも声がかからず、余り者としてどこかの班に引き取られることになるのだろう。

 そして組み入れられた班に於いても、ほとんど誰とも会話すること無く、いつも通りにぼっち属性を発揮することになる筈だ。

 そんな遠足に一体、何の楽しみを見出せというのだろうか。


(行くだけ時間の無駄かな……だったら当日はサボって、家で新しいキャラのデザインラフでもやってた方が有意義かも)


 自分から声をかけて班を作るという手も無くは無かったが、片っ端から断られるのがオチだ。

 それなら最初から何もしない方が良い。

 こういう皆でわいわいと楽しむイベントというものは基本、陽キャの為にある様なものだ。陰キャのぼっちにとってはただの拷問に過ぎない。


(学校側もさ……良い加減その辺の機微に気付いてくれたら、全部丸く収まるのに……)


 凛空はもうすっかり悟りを開いた気分で、六限目のロングホームルームを迎えた。この時間で、班を決めるという話だった。

 担任教師からひと通りの説明が終わったところで、いよいよ班決め開始である。

 生徒達が教室内を自由に動き回り、一緒に行動したいクラスメイトのもとへ足を運ぶなりして、お互いに勧誘し合うという光景がそこかしこで展開された。

 そして隣席は、最も多くのひとの輪が出来た。誰もが磨鈴を、自分の班に引き入れようと必死だった。

 あの亮輔でさえ、磨鈴を口説く為にあれこれと言葉を尽くしている。


「はぁ~……帝塚っち、やっぱ人気だねぇ」


 前席の美都奈が、呆れると同時に感心の色を浮かべて、後ろ向きに座る格好で凛空の机で頬杖をついた。

 ここのところ、美都奈は凛空とよく言葉を交わす様になった。

 後席との縁というだけではなく、最近彼女が遊び始めたブラッドスローンの攻略方法について、何かと訊かれることが多かったからだ。

 凛空はブラッドスローンの多くのキャラクターをデザインしている為、製作会社から様々な裏情報を得ている他、既に公開されている攻略情報についても結構色々と聞きかじっていた。

 ネットで検索すればそれら攻略情報は或る程度は分かるのだが、美都奈はそういう地道な作業が苦手らしく、凛空に手っ取り早く教えて貰うのが楽だと考えている様だ。


「ってかさ、南城。今度また新しいイベント、始まるんだっけ?」

「あ、うん、確か来週……あ、遠足当日ですね」


 美都奈に問われて、ふと思い出した凛空。

 テーマパークで遊ぶよりも、自分が新たにデザインしたキャラクターのお披露目をリアルタイムで見てみたいという気分の方が強くなってきた。


「え、じゃあさ、じゃあさ。移動時間とかにサクっと遊べんじゃん。あのイベントってさ、協力プレイとかもあるんだよね? 南城、一緒にやろーよ」

「そうですね……僕も、誰か、誘おうかって、思ってたから……」


 すると美都奈は早速スマートフォンを取り出し、凛空の前に差し出してきた。


「もう今からさ、フレンド登録、しとかない? 協力プレイってフレンド同士でやったら、色々お得だったんだよね、確か」


 凛空はびっくりした。

 まさか陽キャの美少女からこんな誘いを受けるなんて、思ってもみなかったからだ。

 他にもブラッドスローンを遊んでいるクラスメイトは居るだろうに、何故そこまで、とも思う。彼女がひと声かければ、応じてくれそうな陽キャは何人も居そうなものなのだが。


「ほーら、早くぅ」

「あ、はい」


 急かされた凛空は慌てて自身のスマートフォンを取り出し、互いにQRコードを読み込んでフレンド登録を手早く済ませた。


「じゃあ、遠足の日は、好きなタイミングで、コールして下さい。僕はいつでも、暇だと思うから……」

「え、何いってんのさ。ウチら、一緒に班組んだらそれで済む話じゃん」


 その瞬間、凛空は思わず耳を疑った。

 美都奈はきっと、他の陽キャ連中と一緒に班を組むだろうと思っていたからだ。

 ここ最近はよく言葉を交わす様になったからとはいえ、遠足の班に於いてまで一緒に行動しようなどと彼女から申し入れてくるとは、余りにも予想外に過ぎた。

 更に美都奈は凛空の想像を遥かに上回る行動に出始めた。


「あ、だったらさ、他にブラスロやってる子とか集めてさ、チームプレイなんかもやってみよーよ。ウチ、ちょっと声かけてくんね」

「あ……え……?」


 凛空が唖然とするのも全く気に留めず、美都奈はミニスカートの裾を翻して他の女子らの席を足早に廻り始めた。

 ここまでくると、もう完全に想定の範囲外の展開である。自分はてっきり、ぼっちのはみ出し者としてお荷物扱いとなるだろうと予想していただけに、かなりの衝撃だった。

 そうしてものの数分もしないうちに、美都奈は男子ふたりと女子ひとりを連れて戻ってきた。

 いずれもブラッドスローンを遊んでいるらしく、美都奈が凛空をブラッドスローン上級者だと説明すると、集まってきた三人は感心した様子で笑みを浮かべた。


「おーし、決まりだねー。ってか、あとひとり、どうしよっか? 誰か適当に、沼に引きずり込む?」


 美都奈が悪戯っぽく笑った、その瞬間だった。

 不意に隣の席で、大勢のクラスメイトから勧誘の嵐を受けていた磨鈴が、いつもの鉄仮面に僅かながら焦りの色を滲ませていきなり立ち上がった。

 そして周囲から寄せられる驚きの反応を完全に無視して、凛空達の班メンバーへと面を向けた。


「ちょっと良いかしら。もし最後のひとりがまだ決まってないなら、わたしも入れて貰えない?」


 この時、凛空や美都奈、そして他の三人の班メンバーのみならず、磨鈴の席周辺に集まっていたクラスメイトら全員が驚きの奇声を上げた。

 しかし、磨鈴の表情は至って真剣そのものだった。


「え、ちょっと待てよ帝塚……何で、そっちなんだよ。アイツら、オマエを誘ってもいなかったじゃねーか」


 亮輔が相当に慌てた様子で割り込んできたが、しかし磨鈴は、


「わたしも、ブラスロのチームプレイやりたい」


 というひと言で、押し切ってしまった。

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