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10.絵師は癒される

 磨鈴がデジタルイラスト研究会に入会したという噂は、ものの数日のうちに校内あらゆるところで囁かれる様になった。

 本人は恐らく、誰にも語っていないだろう。

 しかし彼女が放課後のPC作業室に出入りする姿を目撃されたり、或いは田嶋会長辺りが嬉しさを堪え切れずにあちこちで吹聴するなどして、その噂がどんどん拡散されていったものと思われる。

 そして遂には一年D組の教室内でも、直接磨鈴に問いかける声が幾つも連続した。


「なぁ帝塚……あの噂、ホントかよ?」

「何の噂?」


 磨鈴の右隣の席から、亮輔が覗き込む様な仕草で訊いた。

 対する磨鈴は相変わらずの鉄仮面で、視線だけを亮輔にちらりと返した。


「いや、ホラ、だから、アレだよ……オマエがデジ研に入ったって話」

「それなら、本当よ」


 すると亮輔は信じられないといわんばかりの勢いで気色ばみ、更にその長身をずいっと磨鈴へ寄せた。


「オイ、それどういうことだよ……オマエ、バスケ部のマネージャーは断っといて、あんなオタク共のとこに入るなんて」

「いった筈よ。バスケにもマネージャーにも興味ないって。わたしは単純に、やりたいことがあるからデジ研に入った。それだけの話」


 かなりずばずばと、はっきりといい切った磨鈴。

 対する亮輔は、尚も納得がいかないといった様子で引き下がる素振りは見せなかった。


「同好会なんてどうせ大したことやってねぇんだろ? だったら、うちにしとけって。デジ研なんて、どう考えたってナシだぜ」

「……どうしてあなたは、他人の好みや趣味を平気でナシだなんていい切るの? それって凄く失礼な話よね。何様のつもり?」


 この時、磨鈴の瞳には僅かな怒気が籠っている様に見えた。

 一方の亮輔も流石にいい過ぎたと反省したのか、気圧された様に上体を引いて頭を掻いた。


「ま、帝塚っちのいってることにはウチも賛成かなー。神里もさぁ、日本じゃバスケなんて野球よりもマイナーじゃんっていわれたら、腹立つっしょ? それと同じじゃない?」

「いや、まぁ、そりゃあ確かに、そうだよな……悪ぃ帝塚、オレもちょっと熱くなり過ぎたわ」


 美都奈に諭された格好ではあったが、亮輔も冷静さを取り戻したらしく、心底申し訳無さそうな顔つきで素直に頭を下げた。

 磨鈴は相変わらずの無表情だが、この件はこれで手打ちだといわんばかりに小さく肩を竦めた。

 するとここで美都奈が不意に、凛空に水を向けてきた。


「けど南城も上手いことやったよねー。これで放課後はいつでも、帝塚っちと堂々とイチャコラ出来んじゃん。めっちゃ役得ってやつ?」


 からかう様に笑う美都奈。その彼女の台詞に亮輔が敏感に反応した。どうやら彼は、凛空もデジタルイラスト研究会に入ったことを知らなかったらしい。


「うっそ、マジかよ……オマエ、超ラッキーじゃん……っていうか、オタクならではの正攻法か……」


 亮輔は自分自身がデジタルイラスト研究会に入ることなど想像も出来ないが、凛空ならば自然な流れだという意味の台詞を吐いて、大きくかぶりを振っていた。

 凛空はただ、引きつった笑みを浮かべるしか出来ない。

 どうやら美都奈も亮輔も、凛空が磨鈴の後を追って、下心丸出しでデジタルイラスト研究会に入会したと思っている様だ。

 が、実際は逆だ。

 磨鈴の方から凛空に対し、一緒に入ってくれと懇願してきたのである。尤も、そんなことを説明したところできっと誰も信じないだろうが。


「ってかさー、何で帝塚っちはデジ研入ったの?」

「こういうのを、描きたいから」


 美都奈に問われた磨鈴は自身のスマートフォンを取り出し、ブラッドスローンのオープニング画面を表示してみせた。

 そこには凛空がデザインした様々なキャラクター達が、躍動感溢れるアクションで縦横に駆け巡っている姿があった。


「あ、ウチこれ知ってるー。CMとかでも結構、流行ってるやつだよね? ていうか帝塚っちって案外、オタクだったんだ……」

「別に隠してた訳じゃないけど」


 特に誰かに訊かれることも無かったから今までいわなかっただけの話だ、と磨鈴は淡々と答えた。

 すると美都奈は、どこからインストールするのかと問いかけ始めた。どうやら彼女も興味を抱いたらしい。


「何だよ紅林、オマエもやんのか?」

「えー? だってすっごい可愛い子が一杯、居るじゃん。こんなん見たら、やるしかないっしょ」


 美都奈は目を輝かせて、凄く嬉しそうに登録作業を進めてゆく。

 そんな彼女の姿を見て、凛空は心の底から癒される気分だった。


(嬉しいなぁ……僕がデザインしたキャラクターを、こうして目の前で気に入ってくれるなんて……)


 これぞまさに、絵師冥利に尽きるというものだろう。

 この場で自分がデザインしましたとはいえないが、この様な形で新たなファンをまたひとり獲得出来たというのは、本当に嬉しい限りだった。

 ところがこの時、隣の席から変な視線が飛んできていることに気付いた。

 機嫌良くブラッドスローンを遊び始めた美都奈とは対照的に、何故か磨鈴からは渋い色を乗せた視線が飛んできている。


(え……何で帝塚さん、そんな機嫌悪そうなの?)


 凛空は大いに戸惑った。

 新たなファンの誕生にほくほく顔だった凛空を、磨鈴は鉄仮面ながら妙に怒りの念を込めた目でじぃっと睨みつけてくる。

 と思っていたら、彼女はぷいっと顔を背けてしまった。


(えぇ? いやいやちょっと……僕、何かしました?)


 凛空は更に困惑した。

 何が良くなかったのか、自分ではさっぱり分からなかった。

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