神隠し2 山道で
くっそぉ!
こんな夜中まで、子供を放っておく母親があるかよぉ!
俺は、嫁に悪態をつきながらも、夜の山道を走っていた。
こんな夜に峠越えなんてやってるのには、理由が有る。
俺と嫁は、共稼ぎ状態。
俺の実家に嫁いできた嫁は、それまでの仕事を辞めることをせず、できるならとリモート勤務をやってる。
しかし、月に数日は事務所に顔を出さなければいけないということで、その場合は俺が子供を養育園に迎えに行くこととなっている。
数日前に嫁が、その日には事務所へ顔出す日なので子供はお願いねと言ってくれていれば!
携帯電話へのメールで、その日の午後に嫁から知らされた俺は、今、焦りながらもできるだけ安全運転で峠道を山向こうの養育園まで走っているところなのだ。
俺が、いくらなんでも通常メールで、それも当日の午後に送るなんて、それでも母親か?!
と問い詰めると、
「はにゃ?ごめんれー、今日は数ヶ月ぶりの飲み会で、頭から抜けてまひたぁ……」
と、もう完全に酔ってる状態。
俺も仕事が詰まっていたが、上司に懇願して、それでも遅くはなったが、養育園に子供を迎えに行く状況。
予め電話はしておいたので、とりあえず園長さんの娘さんが我が子の相手してくれて、待っている状態だ。
ずいぶん急いだが、それでも日が変わる前には養育園へ。
もう俺を待てなかったらしく、寝息をたててる子供を受け取り、俺は山向こうの実家へと。
家まで半分くらいは過ぎたかな?
というものの、山道は真っ暗で、街路灯すらまばら。
頼りになるのは車のヘッドライトのみ。
少し焦りは有るが、俺は慎重に山道のヘアピンカーブを曲がっていく。
あれ?
この道、いくら午前様の時刻とは言え、こんな空いてたか?
夜の山道だから代わり映えはないとは言え、養育園を出てからこっち、全然、対向車を見ない。
ここ、確か国道だよな。
ふいに横に寝てる子供に目をやると……
「お父さん、引き返したほうが良いよ。この先、お父さんにとって良くないものが待ってる……」
カッと目を見開いたと思うと、それだけ言って、まだ3歳の子供は寝てしまう。
どうしたんだ?
何が起きていると言うんだ?
俺は山道の途中で避難帯へ車を寄せ、停車する。
「一本道とは言え、これは変だ。よし、カーナビを……」
車に備え付けの、ちょいと昔の、それでも地図データは最新になってるカーナビが立ち上がる。
しばらく待つと……
いつまで経っても、GPS衛星を認識しない。
「どうなってるんだ?いつもは走りながらでも、すぐに認識するのに……」
しかたがないので、無理やりこの当たりの地図を表示させる(ピンポイントで手動操作で現在位置を入れ込んでやれるタイプのカーナビで良かった)
地図が表示されたので、俺は車を動かす。
少し初期の位置とは違っていたようだが、車が動くにつれて現在位置も訂正されていく。
相当な距離を走ってるはずだぞ、もう。
もしかして、実家の有る**村の標識を見逃したか?
いいや、そんなはずはない。
このへんの山間地では、俺の実家の有る村だけが今も存続してる村であり、他は無くなってしまった村だ。
俺達のところへ廃村となった村の住人が集まり、今も山間部では相当な人数を確保している。
だから、遠くからでも村の明かりが見えるのが普通だ……が?
おい、考えてみれば、村の家の明かりが見えないぞ……
どうなってる?
俺は、車を走らせていく……嫌な予感と共に……
翌朝。
警察とメディア記者が、おかしな事故を巡って会話している。
「えー…車は谷底へ真っ逆さまでした。しかし、不思議なことに、子供はガードレール沿いの安全な場所に、そっと置かれていたんです。そして、もっと不思議なことに、ドライバーの死体も何も見つからんのですよ。服も財布も全てシートの上に残っているのに」
それを聞いて、メディア記者は警察官に問う。
「えーと……そうすると、ドライバーは車から放り出されて川へ落ちたと?」
警官は首を振る。
「それがですね、落ちた様子もないんですわ。車は真っ逆さまに落ちてフロントは潰れて、シートもドアもクシャ!状態。そんな状態で服を脱いでドア開けて川へ?無理ですよ」
警官も記者も、どういうことなのか首を傾げるだけだった。