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6話


 郁美さんにのちほど説明すると告げたら、案外あっさりと解放された。色々と察してくれたのだろう。前回のように命の危険はないだろうと感じ取ってくれたようだ。また説明しなければならないが、頭ごなしに怒るようなことはしない人だ。あっちの釈明は簡単に済みそうだ。


「はぁーまさかこっちの情報がバレるなんて……」


 俺らは天恵の部屋で会議らしきものを始め、知りうる限りのおおまかな事情は話し終えていた。文音ちゃんの夢をたまたまキャッチしたこと。その夢の映像を元に彼女を救出したこと。そして、なぜ彼女がこの場所を特定たのか俺達自身もわからないが関連性があるかもしれないとのこと。機械を作った理由は文音ちゃんにはぼかしつつ話したが、イタズ ラで作ったことはわかってもらえているようだ。

 探せば逆にあちらに見つけられる可能性はあったというわけだ。しかも意識を失っていたとはいえ、顔合わせはしているのだから可能性が上がるのはなおさらだ。

で、特定されたやつの慣れ果ての出来上がりってわけだ。この部屋の主である天恵は説明の疲れからかホワイトボードを背にしてダイニングテーブルに突っ伏していた。

 で、その話を聞いた二人の反応はちょっと意外だった。俺の右隣にいる燐は、話を聞いてた直後は『夢を見る機械……?』と驚いていたが今はなにやらぶつぶつ独り言を言いながら考え事をしているようだった。機械開発に初期段階しか関わっていないとはいえ、当事者だったのにも関わらずわずかながら驚きのリアクションがあることに驚いた。

そして、今回一番の当事者といえる文音ちゃんはあまり表情を変えていなかったし、文音ちゃんがまったく驚いた様子を見せなかったのが、かえって俺には衝撃だった。話す内容が内容なのと対面で表情がよく見えるのにそう感じたのだから本当に驚いてなさそうだ。


「それで今後はどうするつもりなんだ?」


「当面は文音ちゃんのことを私は調べてみたいと思ってます……まだなにか謎があるかもしれないし」


まるでクラスではおとなしい美人のようにたどたどしく話す。


「わ、私もて……」


「あんたは帰りなさいよ」


「なんでそんな冷たいの!?」

 

まだなにも言ってないが、朱野は協力しようとしてるのだと思う。それなのに、こんな扱いをするのは酷い気がする。


「なんで燐にそんな冷たいんだ?」 


「こいつ頭おかしいのよ。あんたはなにされるか知らないでしょうけどね」


議題の中心がほぼ文音ちゃんのことだったので俺への対応は聞いてなかった。色んなことに首つっこみ過ぎてたまに自分が当事者だと忘れちまう時がある。


「でも、変な提案はしないだろうーー」


「とりあえず源太郎の脳を開いてみたいと思う。出来れば機械の取り出しに挑戦したいと思う」


満面の笑みで言った。分子運動がすべて停止したかのように、時間が止まり、俺の心臓が絶対零度になったかのように思えた。本当の恐怖だと声を出ないというのはそれなりに経験済みなおかげか、俺の心臓と脳が動き出すのにそう時間はかからず徐々に運動を再開し、熱を取り戻していく。


「天恵の意見に賛成だ。帰れ。タクシー代とか置いて帰れ」


「なんで源太郎もそんな冷たいの!?」 


だって怖いもん。冷たいとか言ってる俺が感じてる冷たさはこんなもんじゃないからね。


天恵はまだズレている自覚があるからいい。だが、こいつはズレいるという感覚すらなさそうで怖い。悪気のない不可抗力ほど怖いものを未だに俺は知らない。


「でもでもこれって後天性サヴァン症候群みたいなものでしょ? 私の力があったほうがいいでしょ?」


サヴァン症候群って、天才的な絵や計算の才能が突然出るやつだろ? 確か先天性のものだったと思うけど……


「確かに先天的なものだけど、ごくまれに頭部の物理的衝撃や。もしくは、雷なんかの電気刺激なんかである特殊な才能に目覚めたりする例もあるのよ」


そんなことがあるのか……じゃああの俺らがやったことで彼女の特殊の才能が目覚めたのか。けど、特殊過ぎやしないか。これ一種の超能力だぜ。


「この能力に近いモノは前からありました」


「どういうこと? 文音は動物の心が少しだけど、読めたりしたの。昔から」


「いわゆるサイコメトラーね」


お前が飛ばした謎の電波のせいで偉い目に遭ったようだな。


「確かに天恵が送った電波みたいなものの影響はあるけど、他に頭部への衝撃と落雷が直撃したの」


文音ちゃんが笑い声を滲ませながら、「もうここまできたら神様もtおまけといった感じで謎電波をぶつけたと」


「ご、ごめんなさい!!」


天恵は即座に椅子から飛び降り土下座した。


「えっとその重苦しい空気だったので自分なりに冗談を。か、顔を上げてください……」


冗談のつもりだったらしいが、天恵はそう受け取れなかったようだ。文音ちゃん自身も、冗談慣れしていないせいか、大慌てになっていた。 コミュ障同士なので重い空気がさらに空間を捻じ曲げる。

それよりも事実だけ並べると結構悲惨な目に遭ってるな。まるで俺みたいだぁ……


「でだ、こっからどうすんだ? 文音ちゃんも一時的か継続的かわからんが、協力者として迎えるつもりなのか?」


俺は自分で淹れた緑茶をすすりながら、有識者達に尋ねる。


「それはお願いしたいところだけど……」、天恵は表情には躊躇いの色が伺えた。文音ちゃんを見つめつつも横目で燐を見ていた。


「私が決めることじゃない。決めるのは文音」


自尊心を育てるためにあえて、突き放す母親のように、燐は文音ちゃんを見つめていた。


「私は構いません。むしろ協力したいです」


「郷田さんのような目に遭わなければ」


オイコラ。それはない。安心して。おめえもおかしいからな。文音ちゃんがいるから言葉してないけど、いなきゃまた小突くくらいしてたぞ。


「私は条件がある」


すでに部外者にしたやつがなんか言ってら。

なんでまだいるんだよ。早く帰れよ。もう親としての役目は充分果たした。


「なんで!? なんで除け者にしようとするの!!」 


怖いんだよ。しかも結構ガタイいいし、医者だから薬物なんかで気づいたら手遅れ……みたいなことやりそうなんだもん。


「殺し屋じゃないよ! 命を救う医者だよ!」 


「本当に医者なのか? 免許みせろ。免許」


「それ一回言われたことあるけど、賞状みたいに大きいから簡単に見せられないよ。あーもう今度持ってくるか、運転免許証みたいなカードサイズのやつ持ってくるから信じてよ!」


正直持ってきてほしくない。手術が違法じゃなくなるからだ。なんとかしてくれよという前に天恵が口パクで無理と断られた。

ったく。しょうがない。


やると決めたわけだし、進めていくか。


「じゃあ条件を聞こう」


「うん。とりあえず源太郎は出て行って。ここからちょっと“女の話”だから」


「は?」


突然の退室を命じられた。理由はわからないが、絶対女の話ではないということはわかった。

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