【完結SS】だんまり聖女は国を憂う
「また、だんまりか」
四方を壁に囲まれた真っ白な部屋の中、私の前に座る神官サマが苛立ちを隠さず舌打ちする。
名目上とはいえ神に仕えているとは思えないその姿に、私はジト目で彼を見つめた。
「なんだその目は! お前がさっさとその知識を! 経験を! 話しゃあいいだけだろうが!」
どんなに脅されようが、なだめすかされようが言うわけが無い。少なくとも、この国の人間には。
だって彼らは――
「……仕方ありませんね、次は神の恩恵を分けていただけるよう願ってますよ!」
先程まで私の知識だの経験だのとゴロツキのような口調で言っていたくせに、今更何を言うんだろうか。……どうせ他人の目を気にしてだろうけど。
話は終わりだと急かす神官に溜息をつきつつ、私は神託の部屋を出た。
*
「相変わらずバカな女!」
……早く帰りたい時に限って、面倒なヤツとは遭遇するものである。
仕方なしに振り向けば、案の定そこには同僚がいた。
(パツキン縦ロールと赤ドレスが目に優しくないんだが。あと取り巻きまた増えてやがるし……)
いつもならスルーするのだが、今日はなんとなく話してもいいような気がして私は足を止める。
「何よ、ホントのこと言っただけじゃ……」
「アンタ、私たち『聖女』から聞いた内容、どうされてるか知ってる?」
お話しましょなんてのは柄じゃないので本題をぶつけると、彼女は苛立った様子で叫んだ。
「っ、そんなの、世のため人のために使われてるに決まってるでしょう!」
なんだ、返事してくれるのかよ。ならもっと早くやりゃ良かった。
「何もされてないんよね」
「そんなわけ……!」
あるのだ。残念ながら。
私も最初はただ信用してなかったから話さなかっただけだったが、倉庫である日記を見つけて全てを知ってからは……お察しの通りである。
「聞いて、おしまい。議員はただ『聖女が話した内容がある』ことを、自分が好き勝手やる大義名分にしてるのよ」
「は? じゃあ私たちがいる必要なんて」
「『聖女』や『聖人』がここにいなかったらさすがの平民も疑問を抱くでしょ。そして私たちだって新聞や雑誌は得られる。何も聞かれてないのに『聖女がー』『聖人がー』なんて言われたらアンタならどうするワケ?」
押し黙る彼女たちを置いて私は身を翻した。
「私は別に聖女じゃなくなってもなんとかなるし、この国に殉じたいとも思ってない。だから好きにさせてもらうよ」
誰も、誰の言葉も追いかけてこなかった。
*
私はあの後、『偽聖女』として国を追放された。
そして旅した遠い国で、母国の滅亡を聞いたのだった。