3.side レティシア
娘が、何故か陛下と一緒に帰ってきた。
そして、私の最愛の旦那様が国王陛下に対して不機嫌オーラを隠すつもりが無くて困る。
ニコニコ顔の陛下と頬を染めて恥ずかしそうにしている娘と不機嫌な旦那様。
「突然で申し訳ないのだけど、先程レイレナに婚姻を申し込んだ」
「まぁ」
レイレナが陛下から求婚だなんて!!
思わず頬を押さえてしまう。
「本当に突然ですね」
「もう、リオネル様!!」
私の旦那様は相手が陛下だろうとお構い無しで非常に困る。
「レイレナ、貴女は何とお返事をしたの?」
「あの……」
返事に詰まるレイレナが、陛下を見上げると陛下は優しく微笑んでレイレナの頭を撫でた。
「返事は、まだ貰ってないんだよ。ゆっくり考えて欲しいから」
あら?
レイレナなら即答すると思っていたのに…。
「リオネル様、レイレナと二人で話をしても宜しいですか?」
「かまわないよ」
リオネル様のお許しが出たので陛下に挨拶をしてレイレナを自室へ連れていった。
「どうして、すぐにお返事をしなかったの?」
「だって、あまりに突然で……」
レイレナは興奮ぎみに夜会での出来事を教えてくれた。
「陛下が目の前に居るだけでも息が止まりそうなのに、ファーストダンスに誘われて……しかも二曲も続けて踊ってしまって……」
二曲続けて踊った?
「貴女、二曲続けて踊ったの?」
レイレナは真っ赤な顔で頷く。
いくら正式な場所では無いと言っても大勢の前で二曲続けて踊ったのなら陛下がレイレナを王妃に望んでいると思われてもおかしくない。
レイレナの返事を待つと言いながら逃がすつもりは無さそうね。
「確認だけど、貴女は陛下の事をお慕いしているのよね?」
「!!」
何やら驚いた顔をしているけど、まさか自分の気持ちに気付かれていないとでも思っているのかしら、この子は……。
「レイレナ、お母様は貴女が何処へ嫁いでも恥ずかしくないように一流の教育を施したつもりよ」
実はレイレナには、もしもの事を考えて王妃教育に近い事を学ばせてきた。
まさか本当に王妃に望まれるとは思わなかったけど……。
「陛下も待つと仰って下さっているのだから、ゆっくり考えなさい」
ーコンコンー
「奥様、陛下がお帰りになられます」
「分かったわ」
レイレナを連れて陛下のお見送りに行くと、リオネル様が何とも言えない顔をしている。
こっちはこっちで話を聞く必要がありそうね。
「レイレナ、今夜は驚かせてしまったね。今度、お茶に招待しても良いかな?」
「はい、お待ちしております」
頬を染めて恋する瞳で陛下を見つめるレイレナとそんなレイレナを愛おしそうに見つめる陛下。
完全に二人の世界に入ってる。
もう、婚約でも結婚でもさっさとすれば良いのに……と、この場に居る大半が思ってそう。
「コホン」
私のわざとらしい咳払いでやっと二人は我に返った。
「あっ…」
皆の視線の中心に居る事に気付いたレイレナは恥ずかしそうに頬を押さえる。
「レイレナ、お休み」
陛下は、そう言うとレイレナの額に口付けを落とした。
これが乙女ゲームなら間違いなくイベントよね。
ただし、両親の目の前で起きるかは謎だけど……。
とても尊いシーンを見られて幸せなのだけど、私の旦那様の反応がとても恐ろしい。
横目でチラッと見てみると怒っているより呆れてる…?
やっぱり男親は複雑なのかしら?
「それじゃあ、失礼するよ」
陛下は爽やかな笑顔を残して颯爽と帰っていった。
そして、閉まったドアを今だに見つめている恋する乙女のレイレナちゃん。
「レイレナ、今夜は疲れたでしょう。もう休みなさい」
「は、はい。お父様、お母様、お休みなさい」
さてと…レイレナの次はリオネル様とお話をしないとね。
やっぱり反対なのかしら?
自室へ戻るとリオネル様がソファに腰を下ろしたので私も隣に腰を下ろす。
「リオネル様は、反対なのですか?」
「陛下が本当にレイレナを愛しているのなら反対はしないよ」
え?
どう見てもラブラブな二人だったと思うけど……。
リオネル様は、眉間に皺を寄せている。
「陛下はレイレナの事を大切に思って下さっているように見えましたよ」
リオネル様の眉間を人差し指でツンとすると腕を掴まれて、そのまま抱きしめられた。
「レイレナは君に似ているから…」
リオネル様が何か呟いたけど、よく聞こえなかった。
「リオネル様…?」
「……」
リオネル様は私を強く抱き締めると何も言わなくなってしまった。
今は、何も聞かない方が良いのかも。
どうか皆が幸せになれる未来が訪れますように。