2.初恋の人
陛下との出逢いは私が3歳の時。
お母様が主催したガーデンパーティに、当時まだ即位前だった陛下も招待されていた。
お転婆な私は庭園を走り回っていて、陛下とぶつかってしまった。
ぶつかった衝撃で倒れた私を優しく抱き上げてくれた陛下は絵本で見た王子様に、そっくりで私は一目で恋に落ちた。
その初恋の人が…今、私に求婚している…?
「返事は急がなくて良いから」
陛下に見つめられると胸が高鳴る。
「あの…どうして私なのですか?」
「驚かせてしまってごめんね。……直感って言ったら怒るかな?」
首を横に振ると、陛下は安心したように笑った。
「君を見た瞬間に私の伴侶は君だって思ったんだ…」
早く返事をしなきゃと思うのに恥ずかしくて言葉が出ない…。
「ゆっくりで良いから私との未来を考えてくれるかな?」
小さく頷くと陛下は優しく微笑んでくれた。
「ありがとう」
恥ずかしくて陛下の顔が見れない。
逢いたくて逢いたくてたまらなかった初恋の人が目の前に居るのに……。
「そろそろ、お開きの様だね」
陛下は、そっと私の腰に手を回した。
「君の家まで、送らせてもらえるかな?」
「え?」
「君の御両親にも挨拶をしておかないと」
陛下に手を引かれて歩くと騎士団長のリアム様が居た。
「すぐに戻ってくるからリアムと一緒に待っててね」
陛下は、そう言うと私の額に口づけを落とした。
「ひゃあ!?」
へ、変な声が出てしまった……。
陛下と一緒に居るだけで会場中の視線を集めていたのに…額に口づけなんてするから…周囲から黄色い悲鳴が飛び交っている。
「リアム、頼んだよ」
恥ずかしくてリアムおじ様の後ろに隠れる。
「おじ様、居らしてたのね」
「陛下の護衛だ」
相変わらず口数が少ないな。
リアムおじ様は、私の剣術の師匠で小さい頃から、お世話になっている。
ふと視線を感じて振り返ると、ルーカス様が、こちらを見ていた。
視線に気付いたリアムおじ様が、私の肩を引き寄せるとルーカス様は、背中を向けて何処かへ行った。
「知り合いか?」
「知り合いと言うか…付きまとわれていて困っているんです」
「お前は、剣を持たなければ可愛いからな」
おじ様が優しく私の頭を撫でる。
でも一言余計だわ!!
「おじ様の意地悪!!」
私だって好きで強くなった訳じゃ無いのに!!
魔力量が人より多くてコントロールするのが難しい私は、体力作りで剣術を習っているのだけど……騎士団長のリアムおじ様と学生時代の剣術大会で二位(ちなみに一位はリアムおじ様)の成績を誇るお父様の指導の元、将来は女性騎士?と言われる程の強さを手に入れてしまった。
「レイレナ、お待たせ」
陛下は私をリアムおじ様から引き離すと自身の方へ引き寄せた。
「リアムと随分、仲が良いんだね。妬けてしまうな」
「え?おじ様と?」
可愛がってもらっているとは思うけど特別に仲が良いのかと言われると、返じに困ってしまう。
「リアム、彼女を送っていくから」
「かしこまりました」
私は何が何だか分からないまま王家の馬車に乗せられた。
とりあえず、少しだけ整理してみよう。
陛下が夜会に居てダンスに誘われました。(しかも二曲続けて踊ってしまった)その後、いきなり求婚されました!!
あれ?
何か都合が良すぎない?
もしかして、私は夢を見ているの?
頬をつねった方が良いかしら?
「何を考えているの?」
「え?」
陛下は私を引き寄せると両手で私の頬を包んだ。
か、顔が近いんですけどっっ!!
「もしかして他の男の事を考えてた?」
「ち、違います!!あの……陛下の事を…考えていました……」
恥ずかしくて最後の方は小さな声になってしまった……。
「そうか…君を悩ませているのは、私か…」
陛下は楽しそうに笑っている。
「このまま、お城へ拐ってしまいたいな」
馬車が、ゆっくりと停車すると従者がドアをノックする音がした。
「もう、君の屋敷に着いてしまったようだね」
陛下と二人っきりは心臓に悪いわ。
馬車から降りると出迎えてくれた執事が、一瞬だけ驚いた顔をした。
王家の馬車で帰って来た上に陛下に手を引かれて居るのだから驚くわよね、普通。
部屋に案内されると、すぐにお父様とお母様が入ってきた。
「こんな時間に先触れも無く何の用ですか?」
「お、お父様!?」
お父様の態度に倒れそうになってしまう。
「クククッ、お前は相変わらずだな」
陛下は楽しそうに笑うと「リオネルとは古い友人だから気にしなくて良いよ」と私に囁いた。
「突然で申し訳ないのだけど、先程レイレナに婚姻を申し込んだ」