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「少しいいかな」

スラーヴァは科学解析室を訪れてイシュラインに話しかけた。

「ああ、スラーヴァ捜査官、ちょうどよかった。例の物質の解析が完了しました。そちらの端末にも一応転送しておきましたが、タクサイドA-チタン化合物のアルファ1型です」

イシュラインは丁寧な口調でそう言った。緑から赤、赤から緑、きらきらと目の色が変わって見える。

「アルファ1型というと・・・」

「確かに少々奇妙ですね。現在の主流はガンマ3型ですから。よほど旧式の船か・・・」

「独自建造船か」

スラーヴァがうなる。

「その船のことで少々力を借りたいんだが、構わないかな?」

「私にできることでしたら」

「助かるよ。実は、どうやらその問題の船は光速の28%を越えるスピードを出していた上、全く回避行動をとらなかったらしいんだ」

「それはますますもって不可解ですね」

イシュライン考え込む風を見せる。

「だろう。一つ考えられるのは、相手船が故障していた可能性だ」

「なるほど。つまり、操船ができなくなっていた、と」

「その通り。それで、その場合の相手船の位置を割り出してもらえないかな」

「おやすい御用です」

イシュラインは立ち上がって言った。端末に座りオペレーション・タッチの上に指をすべらせる。と、不意に手を止めて言った。

「すみません、マレイ号の航行記録がまだ正式登録されていないようなのですが・・・」

「しまった、忘れていた。今転送するよ」

スラーヴァは慌てて事故解析室へ戻るとマレイ号の航行レコーダを端末に接続した。端末経由で共有データバンクに登録する。

「・・・受信しました。航路を追跡します」

イシュラインが言い、軽くスクリーンに触れた。画面が切り替わる。

「事故の衝撃によりかなり航路が変わった可能性が高いですね。少々お待ち下さい・・・ライナ、シミュレータオン。それから・・・」

少しも手を休めることなく次々と指示を出していく。スラーヴァは感心して眺めていた。ライナ、というのはどうやらこの端末の名前らしい。やがてイシュラインはぽんぽん、と指を盤上で跳ねさせるとくるりふり返って言った。

「相手船の正確な質量が分かりませんので、完全な予測にはなりませんが、これが大体の予想位置です」

パネル画面上にオレンジ色の領域が現れる。

「探査できるか?」

「隊長の許可さえあれば可能ですよ。聞いてみましょうか」

「あ・・・ついでにお願いできるかな」

「了解」

 あっという間に手続きを済ませて探査を開始する。全て操作を終了するとイシュラインは静かに言った。

「さて、これで向こうがステルス機能を搭載していない限りは見つかる筈です。何しろタクサイドAの塊ですからね」


「見つかった?!」

連絡を受けて飛び出して行く。

「あ、スラーヴァ捜査官」

画面の中でイシュラインがまだ何か言おうとしたけれども、聞いてなどいない。その足で解析室のイシュラインを訪れる。

「直接来ていただかなくても結果は端末の方へ転送しましたのに」

イシュラインはそんなことを言った。笑っているようにも感じるが、どうもよく分からない。

「それでどうなんだ」

「ひとまず光通しでの通信を送ってみましたが、返事はないようです。何らかの理由で通信装置が作動していないか、あるいは・・・」

「返事をする気がないか、か」

 イシュラインはループ探査の結果を表示しながら言った。

「これが艦影です。戦艦にしては大きすぎるのではないでしょうか」

「・・・・・・」

スラーヴァは顎に手を当て考え込んだ。何か今、考えが通り抜けたように思ったのだけれども。

「どういう船か分かるか?」

とりあえずそう尋ねてみる。

「勝手ながら探査機を派遣してみました。何しろ向こうの速度が速いですからね、あまりいい映像ではないのですが・・・」

画面が切り替わる。現在ではまずお目にかかれないようなデザインの船。見たような見ないような文字が描かれている。

「・・・」

スラーヴァはしばらく声もなかった。さらさらと文字の写しを取る。

「イシュライン、」

「はい?」

「使える限りのチャンネルを使って通常通信メッセージを送ってくれないか」

「通常通信ですか?」

少しばかり意外そうな調子でイシュラインが言う。

「メッセージは・・・ああ、少し待って。教授に聞いてみた方がよさそうだ」

スラーヴァは言い残すと飛び出して行った。


「・・・読み方は様々だろうが・・・セリーア、と読めるね、私には」

通称教授、高等部の教育を受け持っているタルクスはそんなことを言った。本物の教授だ、という噂もあるが、はっきりしたところは分からない。

「セイリーア?」

「意味は分からない・・・シーリーアかもしれんし、もっと他の読み方かもしれん・・・いや、待てよ。サリーアじゃないか?」

「・・・やはり」

スラーヴァは呻くように言った。

「サリーアと言えば確か300年ばかり昔に建造された巨大宇宙船じゃなかったかね?結局途中で行方知れずになったが」

とタルクス。

「ええ、その通りです」

スラーヴァは少しばかり興奮を抑えきれない様子で言った。

「サリーア号ですよ、教授、サリーア号だったんだ」

「・・・と言われてもね」

タルクスは、話が見えず、訝しげである。

「事故があったことは、ご存じでしょう」

「ああ、聞いている。もう少しで6号機共々消されるところだったって?」

「あ・・・はは、そこまでもう話が回っているんですか。いえ、それはともかく、問題の当て逃げ船というのが、恐らくそのサリーア号なんですよ」

「・・・・」

教授はぽかんとしている。

「旧共通語でメッセージを作成していただけませんか」

「それは構わんが・・・本当にサリーア号なのか?」

教授は端末に向かうと何やら呼び出した。

「文面はどうする?」

「どうしますかね。白竜号から旧き同胞へ、返事を乞う、くらいでどうでしょう?」

「それじゃなんのことか分からんだろう」

「ですがどう説明します?300年近くも新しい私らが彼らに追いついてしまったことを」

「そうだな・・・」

タルクスはしばらく考えていたがさらさらと文面をしたため、それを翻訳にかけた。

「どうする?チップに落とすか、それとも転送しようか?」

「あ、転送して下さい。科学解析室のイシュライン技官あてで」

「隊長には報告したかね?」

「あ、忘れていた!」

スラーヴァは言うと慌てて飛び出していった。


「間違いないのか」

ブルストリーが信じられない、といった様子で言う。

「ほぼ確実かと思われます」

イシュラインはそんなことを言った。

「サリーア号・・・無謀とも英断とも言われ地球を飛び立った船がこんなところで見つかるとは」

低くブルストリーがつぶやく。

「予定航路から大分外れていますね」

明るい中性的な声はこの船、白竜号自身の声である。ふいっとスクリーンに灯が入りサリーア号の元来の航路と現在位置とが表示された。

 辺境勤務というのはひとたび事が起こると恐ろしく忙しいが、暇な時はそれこそ苛々するほどに暇になる。おかげでたまにおかしな能力を開花させる人間もいて、そういった連中が時に変なことをしでかすのである。

 この白竜号などは、そのいい例で、これはイシュラインの前任者の置きみやげである。彼は、どこをどうしたのか白竜号の頭脳を勝手にいじくり回した挙げ句、意識を持たせることに成功、そのまま自分はよそへ引き抜かれてとっとと中央へ帰って行ってしまった。初めのころは何かとトラブルの多かった白竜号だが、最近はさすがに多少まともにはなって来ている。

「恐らく舵か何かに異常が起こったのでしょう。今回のマレイ号事故も一端はそこにあるのではないかと睨んでいます」

スラーヴァが言う。

「しかし、これは少々厄介かもしれんぞ」

タルクスがそんなことを言った。ブルストリーも頷く。

「彼らはショックを受けるでしょうね・・・」

「中の人間が生きていればな」

「チームを組んで派遣しましょう。医療部と解析部の人間、それから----」

少しブルストリーが考え込む。

「誰か心理的なケアのできそうな人間も一人いる方がいいだろう」

とタルクス。

「私は今回は控えた方がよいでしょうね」

イシュラインはそんなことを言った。

「申し訳ない、イシュライン技官。本当ならあなたの力をお借りしたいところなのだけれども・・・」

ブルストリーが申し訳なさそうな表情になる。イシュラインはさらりと言った。

「どうぞお気遣いなく、隊長。後発に追いつかれた上異星人までいたのでは、きっと皆卒倒してしまうでしょうからね。母艦から支援態勢をとりましょう。白竜、頼むよ」

「了解。ばしばしやりましょう」

そんなおかしなことを白竜号が言う。ブルストリーは即座に言った。

「やらんでいい」

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