エミリア・レトナの自覚なきざまぁ
ここは、広大な平野と多彩な魔法文化を有する豊かな国ランデルの王立学院。
歴史、外国語、魔術。
貴族の子弟たちは、王都の中央に位置するこの学院で、五年をかけてさまざまな知識を学ぶ。
今日はその卒業式だ。
学院の大ホールで開かれるその式典の来賓席には王を筆頭に大聖女、宰相、外国の大使などそうそうたる顔ぶれが並ぶ。
式が進み来賓の挨拶が終わったその時だ。
ホール前方の壇上に、この日卒業する生徒のひとりが麗しきドレス姿の女性を伴いかけ上がり、話はじめた。
(王子)
「私はここで婚約者エミリア・レトナ伯爵令嬢との婚約破棄を宣言する。彼女は私の隣にいるマーガレット・メリー男爵令嬢をクラスの中で孤立させ、些細なミスを叱責し、果ては階段から突き落とそうと試みた。何とかその企みは私が阻止したが、王妃となるにはふさわしくない。そして私がその被害者であるマーガレットを新たな婚約者に選んだことも合わせて報告しよう。彼女の微笑みがこの国の未来を照らしてくれるはずだ」
すると来賓席から、
(大聖女)
「まことか!ではエミリアは私がもらい受けるとしよう。こやつに聖女として飛び抜けた資質があることは前からわかっていたが、第一王子の婚約者であるがゆえ遠慮するしかなかった。私の元で一年修行させれば一人前になる。やがては私の後継者として、この国をさまざまな災いから守るであろう」
それに続いて次々に発言が。
(学校長)
「いや、それならばエミリアは我が学院に外国語教師として残したい。家柄は申し分ない上、長年に渡り王妃教育を受けて来ておるから、幅広い言語の知識が備わっておる。性格は少しばかりわがままだが、若い紳士淑女を教育するには時には理不尽さも必要。最適の人材じゃ。教育こそが未来の要じゃ」
(宰相)
「ちょうど女性で秘密工作の出来る者を探していた。そのような事件を起こしていながら平然とこの式典に出席出来るのは胆力のある証拠。是非我が国のために働いてもらいたい。今ならラッキーナンバーの007の席が空いている。王もお喜びになる」
(第二王子)
「兄がいらないというのなら私と結婚するのはどうであろう。社交界にはエミリアのような華やかな美しさが必要だ」
(騎士団団長)
「時代は変わりました。我が騎士団は女性の騎士も歓迎いたします」
(魔女代理)
「お顔だけで判断すれば魔女などもお似合いかと」
(商人)
「新しい舞踏会ファッションのインフルエンサーに」
(冒険者ギルド代表)
「そのような資質すべてを総合して発揮出来るのが冒険者ギルド…」
(魔王代理)
「うちに来てもらえるならギルドの倍の給料を」
と、顔を真っ赤にした壇上の男が…
(王子)
「待て、婚約破棄はなかったことにする。エミリアは私の婚約者だ。誰にも渡さん」
(一同)
「どうぞ、どうぞ、どうぞ」
***
しばらくして…
(エミリア)
「ああ、よく寝てた。来賓の挨拶ってほんと退屈だよね。あれ、もう式典終わってるじゃん!」
こうして、王都の平和な一日はなんとなく過ぎて行ったのだった。
もちろんマーガレット・メリー男爵令嬢を除いてではあるが…