表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が家のメリーさん  作者: 不穏姫
2/2

第一話

「どうして俺なんだ!何が目的なんだ!」


そんな感じの事を、何度か聞いたと思う。


特に幽霊に恨まれるような事もせず、平穏に生きてた俺が

へんな怪異に付きまとわれる理由など存在しないはずだ。


「なんとなく、ですの」

「ついていきたくなったので」


そんな感じの事を返されるだけだった。


「俺を殺しにきたとか、そういうわけじゃないのか?」


「いえ、特にそんなわけでは」


目の前の人形は、人形特有の無機質な表情のまま答えた。

人形らしく、表情筋というものは存在していないのだろう。


その後も、目的等を聞いてはみたのだが、

どうもはぐらかされるだけで、こっちに憑いてきた理由までは聞けなかった。


―…


――…


「はーぁ…」


とりあえず、この人形が直接的な危害を加えてくるものではないという事で

安堵した。


「とりあえず、俺を殺すとか、そういう目的ではないんだな」


「ええ、そうですの」


まだ他に企んでる事はあるのかもしれないが、ひとまず殺意というものは無いらしい。

それを聞いて安心した俺は、日課のネットサーフィンをやることにした。


小さいテーブルの上に置いたノートPCから8ちゃんねるを開き、

俺はゲーム板を見る事にした。

オカルト板に行き、今日起こった事を書き込んでやろうかと思ったが、

どうせ、作り話と思われそうだし、文章を作るのが億劫だったため、その思考は消えた。


「何見てるんでか?エッチなサイトですか?」

いつの間にか背後に人形が移動していた。


「違ぇよ!ていうか何で幽霊の癖にエッチなサイトという概念を知ってるんだよ!」


「えぇ、おかしいですね。年頃の中学生は、パソコンを手にしたら、間違いなく

 検索ワードに卑猥なワードを入れて検索するものと思ってましたが」


「しねぇよ!少なくとも俺はな!」


俺はYとは違うからな。


Yは入学速攻、教室に置かれたパソコンで

「グラビアアイドルの名前 + 卑猥なワード」で検索をしていたが。

どうせ学校のセキュリティソフトで制限かけられているのに、よくやるものだ。



「なるほどな…今回のガチャの強キャラはこいつか…」


「…」


俺はゲーム板の記事を見るのに集中していたが、

やはり、後ろから、しかも怪異に見られてるとなると、どうしても気が散る。


「…ちょっとやめてくれないかな」


「何をですか?」


「後ろから黙ってのぞき込むのだよ」


「えー、だって暇ですし」


「暇ならどっか行ってくれないかな。頼むから」


「嫌です」


無駄だったか。

俺は全てを諦めて、ネットサーフィンに集中することにした。


暫くの間ネットサーフィンをしていたが、

背後の人形は覗き込むだけで、それ以上の行動は起こしてこなかった。


―――…


「次は何を見てるんですか?」


「まとめサイト」


あまり褒められた趣味でもないが、暇つぶしとしてはいいため

まとめサイト等も、情報源にしていた。


「まとめサイト…ってアレですか?

 ひたすら、なんらかの両者の対立を煽ってPVを稼ぐのが目的の」


たしかにその通りなのだが、そう言われると見る気が失せてくる。

まとめサイトの管理者にいくら金が入ろうが、俺にとってはどうでもいいことだが。



―――…


「あ、そのサイト知ってます!pixiaですね!」


pixiaとは、絵描きが交流に使うSNSの事だ。

もっぱら俺は絵が描けないので

アカウントだけ作って好んだ絵をブクマするだけのROM民だが。


「ということは、そろそろエロ画像とか探しに行く感じですね!」


「あーもううるせぇな!」


集中できなくなった俺はブラウザごと、pixiaを閉じた。


「え?なんで閉じるんですか?」


「お前がうるせぇからだよ!」


たしかにエロ画像等もブックマークにいれた事もあるが、

たんに好きなゲームのキャラの絵がたまたま18禁だっただけで、

断じて俺はエロではない。Yみたいな扱いは止めてくれ。



「ああもう!とにかく、でていってくれ!!」



1秒でも長くこの人形を家に留めておいた俺が間違いだった。

そう思いながら、俺は力強く叫んだ。



「どうしてですか?」


「近くに人がいる…人じゃないな…!

 とにかく、誰かがいると集中して作業が出来ないんだよ!」


「家に籠っていつ役に立つか分からない知識を集めるネットサーフィンですか?」


「ああもううるさいな!」


続け様に「とにかく、出て行ってくれ!」と放つ。


「はーい」


そういうと、人形は出口の襖の方を向くと、瞬時に移動…消え去った。


「…後ろにはいないよな」


念のため振り返ると、後ろには立ち上がって背後にしたテーブルと、

ネットサーフィンに使うノートPCが置かれているだけだった。


「やれやれ…」


そう呟きながら、平穏たるネットサーフィンとPCゲーム三昧を謳歌し、

夜の2時が近づいた俺は、布団を敷いて寝る事にした。


変な人形に絡まれたけど、あんがいあっさり解放されたな。


そう簡単に思ったのが間違いだったことを、俺は明日思い知る事になる。


―…


――…


―――…


…ブルル…ブルル…


スマホの目覚ましのバイブ音で目が覚める


「ふぁあ…もう朝か」


夜の2時まで起きていた事を後悔しながら、何時の通りの朝が始まろう…としていた。

…していたんだ。


布団の魔力に抗いながら、体を起こそうとすると、

背後に不自然な気配というか、空洞のようなものを感じた。


「私、メリー。今、あなたの布団の中にいるの」


「うわあああああああああああ!!!!!!」


布団の中にメリーさんがいた!


俺は勢いでその人形を突っぱねて、布団から飛び起きた。


「なんでいるんだよ!!」


俺の穏やかなる朝は一瞬にして激変した。


「なんでって言われましても…なんとなくですの」


「なんとなくで人の布団に入り込む奴がいるか!!」


わざとなのか分からないが、キョトン…というより、無反応な人形に叫ぶが、


「ってこんな事してる場合じゃない!」


そう、朝食も取らない夜更かしが多い俺は、

朝起きたら、即座に学生服に着替えて家を出るというスケジュールになっている。


「とりあえず、着替えるから、出て行ってくれないかな」


「え?なんでですか?」


またその返しかよ。


「普通、人が着替えるって言ったら、普通は出ていくんだよ!」


「はーい」


そういうと、人形は出口の襖の方を向くと、瞬時に移動…消え去った。


「やれやれ…」


一連の騒動から、ようやく一時的にだが

1人の時間を取り戻した俺は学生服に着替えながら、今日の事を考えていた。


とはいっても、またいつもと変わらない、

6時間分の授業を受けて、家に帰ってスマホゲーをポチポチしながら

ネットサーフィンに興じる日々。


そう思いながら着替え終わった後、

部屋の襖からノックの音が響く。


「私メリー。今あなたの部屋の外にいるの」


「それは知ってるよ」


「はいっていいですの?」


「いいよ」

半ば、諦めたように返事をした瞬間に


「私メリー。今あなたの後ろにいるの」

どうやら、どんな原理なのか分からないが、

いつもの瞬間移動能力で俺の背後にワープしてきたらしい。


「はぁーっ…、お願いだからもうちょっと普通に入ってきてくれないか?

 襖を開けて入ってくるとかさ…」


溜息交じりに呟く。

そのまま後ろを振り向かずに通学カバンを持つと、俺は学校へ行く構えに入った。


「どこへ行きますの?」


「学校だよ」


そこまで言った後、俺はハッとなった。

この人形、まさか学校までついてくるつもりでは?


「いや!お前は学校へくるな!」


俺はメリーさんの両肩をつかみながら


「どうしてですの?」


「人形が動いて喋ってる光景なんか見たら、普通の人はパニックになるんだよ!」


そう述べた。


「ええ?なんでですか?」


「なんでもどうしても、普通はそうなの!」


「どうしてもですか?」


「どうしてもだ!人間以外はいちゃいけないんだよ!

 学校に限らず、普通の世の中っていうのは!」


俺は玄関に向かいながらそう答えた。

ついてきたメリーさんが答える。


「『人間以外』は来たらだめなんですね?」


「…ああ。そうだ」


その言葉に少し引っかかるものを感じたが、俺は生返事気味にそう答えた。


玄関に付き、俺は背後にメリーさんがついてきてない事を確認すると、念には念を込めて


「いいか!絶対ついてくるなよ!幽霊なんてものが世間に知られたら、パニックになるからな!」


そう念を込めてメリーさんがいる部屋に届くように叫ぶと、俺は外に出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ