ガーベラ
たった2500文字で紡がれる、僕の成長ストーリー
星が燦然と輝くあの夜。
二人だけの静かな夜。
君とはもう会えないかもしれないけれど
いつかまた会えるその日を信じて,,,
目眩がしそうなくらいの暑さに服にまとわりつく汗。これでもかと五月蝿く鳴く蝉たち。
温暖湿潤の日本に住む人ならばみな、億劫に感じてるであろうその感覚。
そしてそれは"普段ならば"、僕も例外ではなかった。
ただし、今日に限ってはそんな事よりも「彼女」が気になって仕方なかった。
中学三年生の夏、今までの学校生活を振り返ってみても決してまともな学校生活を送ってこれなかった僕にとって、こんなにも何かに興味を持ってしまうことが驚きだった。
春、転入してきて初めて見た彼女はとても綺麗な目をしていた。透き通っていて、どこか儚いような、そんな目だ。
普段ならば初めて出会った人とは挨拶をする事すら躊躇ってしまうが、彼女の雰囲気はそれを打ち消すように、隣に座ることになった僕に挨拶をして来た。
「これからよろしくね」
「こちらこそ。これから仲良くしてね」
自然と肩から力が抜けこちらも挨拶をすることに抵抗が無くなっていた。
端から見たら至ってそれは普通の出会い方、しかし僕はこのちんけな生活が確かに大きく変わるような、そんな運命的な何かを感じていた。
予感は的中し、彼女との出会いは、僕の有り様を大きく変えていった。
転入してきたばかりの彼女は僕も感じたその雰囲気ゆえなのか、数日でクラスの輪に溶け込むことは容易かったようだ。
勿論、クラスの輪に溶け込むことが何を指しているかくらい僕には明白だった。
僕自信も期待はしていなかった。
何故なら、特に友達が居るわけでもなく、周りからもとても良いとは言えない態度を取られている僕の評判を聞いて彼女が離れていくのは分かっていたからだ。
それでも、彼女は僕に明るく話し掛けてくれた。
どれもどこにでもあるような、ごく普通の会話だったが僕にとってはとても心地よかった。
自然と僕もそれに応えるように笑顔が増えていく。
彼女と出会い2ヶ月が経った。
少し前まで心地よい風が吹き込んでいた教室からは雨の音が染み込んでいた。
例年ならば雨が降り続けるこの季節に億劫になるはずだが心なしか、今年の梅雨はそこまで悪い気がしなかった。
僕の日々は彼女との出会いに誘発され、確かに変わりつつあるからだ。
それは僕の学校での性格にまで影響があった程だ。
今までは興味すら持てなかった部活動、級友、全てが鮮やかに見えだした。
まるで今まで灰色だった僕の日常が
鮮やかな空色で塗られていくように。
そんな僕の幸せが崩れてしまう"その日"は突然訪れた。
彼女は突如として居なくなってしまった。
否、消えてしまったという表現の方が 正しいのだろうか。
僕の席に隣にあった彼女の席は当然のように存在しておらず、名簿にも、クラスメイトからの記憶からも、彼女の存在は跡形もなく消えていた。
たった一夜の間に、世界は元々彼女が存在しなかった者かのように振る舞いだした。
彼女という柱を失った僕の新しい生活は一瞬にして崩れ去っていった。
全てが振り出しに戻ったかのように。
夏の気配が感じられる頃には既に元に戻った日常に慣れていた。
彼女なんて元から居なかったのだ、自分にそう言い聞かせて。
いち早く忘れたかったのだ。
そうで無いと、今まで感じてこなかった刺激を感じてしまった僕には耐えきれなかった。
目眩がしそうなくらいの暑さにクラクラさせられる夏の日。自室の天井を眺めていた僕は虚しさに耐えきれず、ふと考えた。
あの輝いた日々はなんだったのだろうか?
結局僕は一人では何も出来ないのだろうか?
このまま振り出しに戻ったらこの世界に居た僕の中の彼女の存在意義は?
少しだけ頑張ってみよう。
今までの人生で一度も出来なかった、挑戦。
僕は心の中で覚悟を決めた。
その瞬間、普段はまともに機能することのないLINEの通知がきた。
それは、もうこの世界に存在しないはずの「彼女」からのメールだった。
「今日の深夜の0時に○○山の展望台。待ってるね」
たったこれだけのメールだった。
「分かった」
本来ならば聞くことは山ほどあるのだろうが、彼女と会えるかもしれない事だけで胸がはち切れそうな今の僕にはこれだけの文で十分だった。
深夜の0時、本来ならばもう既に自室で眠りに就いているはずだが親にバレないようになんとか抜け出すことができた。
○○山の展望台。普段ならば辺り一帯の街が全て見ることが出来るデートスポットとして人で賑わっている。
星が綺麗に見えることでも有名なので、夜にも一定数の人が居る。
それでも深夜のこの時間帯、既に僕以外の人影はどこにも見えなかった。
展望台に設置されている時計が12時を指す頃、彼女はふと現れた。
久しぶりに見る透き通ったその目。
初めて会った時と唯一違うのは、その目に映っているのは儚さではなく、どこか未来を見ているような、そんな目だった。
彼女は自分が居なくなっていたことを、無かったことかのように僕に振る舞ってくる。
僕もそれに合わせた。
今の彼女との会話を少しでも乱すことがあれば、この幸せな一時は一瞬で崩れ落ちてしまいそうだったから。
それでも二人の間には夏特有の涼しい風とはまた違う、どこか心地よい空気が流れていた。
星が燦然と輝く中、彼女は立ち上がり僕に対して言葉を掛けた。
「君はもう一人でも大丈夫だね。」
それは、生まれて初めて自ら物事への「挑戦」をすることが出来た僕への労いの言葉にも、「彼女」との別れの言葉にも聞こえた。
最後見た彼女は星にも負けない、綺麗な笑顔で笑っていた。
気づいた頃には彼女は完全に姿を消していた。
それが再び彼女との別れを指している事も分かっていた。
ほんのり東の空が白み始めた頃、僕はようやく帰路につくため、歩みだした。
自然と足取りは今までのような重さは感じなかった。
今まであれだけ億劫に感じてしまっていた朝日はとても美しく感じる。
一日が始まる。
決して楽な道のりではないかもしれないけれど
また彼女と再開出来る日を信じて。
展望台に咲いていた白色の花は静かに揺れていた。
読んでくださってありがとうございます。
この物語の館の題名にある「ガーベラ」とは花の名前で、花言葉は「希望」。まさに主人公の僕の今後にピッタリなのではと思いつけさせてもらいました。一応最後の最後に花として登場させて貰ってます(笑)
初めての小説投稿ということもあり、二日程度で仕上げましたが、素人ながらとても楽しく物語を作ることが出来ました。
改めて読んでくださってありがとうございました!