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ウーバーイーツ物語  作者: わるタンUber
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わるタン奮闘記

コードネームはわるタン。ウーバーイーツ配達員のTwitter界隈では、そこそこ名が通っている、と自分では思っているw。本業は中高一貫校の国語非常勤講師。と言っても今ではどっちが本業でどっちが副業か分からなくなってきている。授業が終わってそのままUber稼働するときは、ウバックを背負って片道20kmの学校までロードバイクで通勤する。初めの頃は生徒から、「先生、ガチやんw ガチでウーバーやん!」羨望とも嘲笑とも受け取れる声援を送られたが、今では通学の日常の風景に溶け込んでしまい、珍しくもなんともなくなった。


最近、ウーバーイーツのサービスが何かと注目を浴びている。悪い方の注目だが。ついこの前も東京で「石頭つけ麺騒動」があった。未だ継続中。通信サービス系の有名ライターがつけ麺をウーバーイーツで注文し、その配達が予定よりも大幅に遅れ、汁まで溢れてた事象に端を発する。ありがちな事だがここからがよろしくない。ライターは受取を拒否、その後自身で食べ物を買いに行こうとしたところ、マンションの共有部分につけ麺が見るも無残に投げ捨てられていた。それを1万人以上のフォロワーを有する自身のTwitterに写真付で投稿。ウーバーイーツ配達員はけしからん。注文するの怖い。変な配達員本当に多い。ウーバーの仕組みに問題あり!というUberバッシングが展開されるなか、これに真っ向から反論する形で意識高い系ベテラン配達員が参戦。捏造疑惑を呈したが石頭氏に見事に論破され撃沈。逆に石頭氏は、自身への誹謗中傷行為だとして、絡んできた配達員を、晒し吊るしあげた上、Uberに猛抗議。子奴らはUberのガイドライン違反だとして実アカウントを特定し然るべき措置を取るようUber社に訴える。現在訴えた4名のうち3名のアカウントが特定され、その後のUberの措置が注目されている。


「マスコミもこんなしょうもない騒動、テレビで放送すんなよ。」


テレビを見ながら毒つく私に、妻は


「でも、本当なんでしょ?」


「事実があった、というだけで本当のことは誰もわからんよ。第3者が介入していたら、その事実も誰もわからんし。」


「でも、Uberとその配達員に問題があったのは、否定できないよ。」


「だから〜 誰もわからない確認できていない事を、なんでテレビが憶測だけで報道すんねん?1社だけでなくほぼ全ての民放で!こいつら事実なんてどうでもいいんや。ネタだけ面白ければ。ほんまいい迷惑や。これで戻ってきてた鳴りが、また悪なるやんけ。」


「はいはい、また始まった。マスコミ批判が、そんなんやったらもうテレビみんかったらいいのに。」


案の定、今日の夜の鳴りは渋い。午後6時から始めて9時をちょっと回ったが未だ3件。時給に換算すると五百円ほど。なんか急に寒くなってきた。もう今日は帰ろうと思った矢先、ピコーん!配達依頼の音。ロクスポ前のマックを狙ってたが、鳴ったのは小麦の実り。いつも飴インセくれる配達員を大事にする人気のお店。


「でもここのうどん、苦手なんだよな〜前も溢しちゃったし。」


恐る恐る注文内容を確認する。


「あぁぁ〜やっぱりうどんか!個数は1個か、まあいくっきゃないな〜」


「配達先はっと、あぁあ御影山手か。町名に山手がついちゃうと坂なんだよね〜」


実はドMの私、文句を言いつつ顔はにやけてしまう。配達途中、思わず配達中である事を忘れ坂登りに熱中してしまった。あろうことか無意識にダンシング。それでも一個だしまあ大丈夫だろうということで中身を確認せず配達先へ到着。


「ウーバーイーツです。お届けに参りました。」


緑ウバックの蓋を開けた瞬間、さぁっと血の気が引いて青ざめる。うどんの容器を入れていた茶色い紙袋が濡れている。その紙袋を持ち上げるや破けてしまった。あぁぁ〜やってしまった。あの石頭騒動が脳裏をよぎる。やばい、ヤバイ、やばい!この窮地をどう脱すれば?だってこんなんあかんやつやん、容器やっぱりあかんやん、こんなん自転車で登らせたら絶対こぼれるやん。なんで包みが紙袋なん?せめてビニールにしてよ。バッグの底にも汁こぼれまくってるやん!はい、破棄案件確定。今日のラストがこれか!しょうもな!まあ一応謝っとくか。昔鍛えた営業スマイルとトークでこの場を凌ぐか。


「本当に申し訳ありません。注意して運んできたつもりなんですが、、、こんなにも汁が溢れてしまって、、サポートセンターに電話して破棄案件にいたします。申し訳ありませんでした。」


終始頭を下げての完璧な声のトーンと申し訳ない感の演出!自分でも惚れ惚れするな〜さてと、お客様の反応はっと…


「あの〜 … しるなくても …いいんで(ごほっ) うどんだけもらえますか?」


え?初めて顔を上げお客様を見る。パジャマ姿、立ってるのもやっとのよう、明かに体調を崩してるのがわかる。娘ほどの年頃か。


「朝から何も口に… うどんだけでも頂いていいでしょうか?」


「も、もちろんです。どうぞ!」


うどんを手渡しながら、何か言おうとしたが、上手く言葉にできない。


「あの〜お怪我は(ごほっ)ないですか?…火傷は?」


「あ、は、はい…特に痛い…あれ…あれ…」


ポロポロ涙が溢れてくる。

涙腺に大きな穴が空いたように止めどなくポロポロと。


「やっぱりどこかお怪我…」


「ち、違うんです…本当に…申し訳…

暖かいうどん届けられず…本当に…」


恥ずかしくて、申し訳なくて、顔を上げることができない。自分の傲慢さに、自分の至らなさに。


*** わるタンの真の配達員への道は今始まったばかり


つづく


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