表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬たちは死者と戯れる  作者: KAIN
第一章:犬たちは死者から逃れる
7/40

第七話:騙欺

 無人の廊下は、しん、と静まり返っていた。

 今日は休日、生徒達の大半は学校には来ていないのだろう。静かなのは、それが原因だ。

「……」

 犬鳴志穂(いぬなきしほ)は、そう必死に自分に言い聞かせた。けれど……

 けれど……

 先ほど教室の窓から見た光景や、腕の中で小刻みに震えている少女の体温や、乱れた呼吸などが、今のこの状況が、そんな甘いものじゃ無い事を物語っていた。

「……」

 志穂は目を閉じる。

 篤志の顔が、美雅の顔が、頭の中に浮かぶ。もし……

 もしも……二人とも……

 二人とも、あの怪物共に、殺されてしまったりしたら……?

 そうなったら……自分は……

 自分は……

 どうすれば、良いのだろう?

 いいや。

 志穂は、軽く首を横に振る。

 きっと大丈夫だろう。あの二人はなんと言っても、悪運だけは強いのだ。きっと生きて……

 志穂は、ちらりと無人の廊下を見る。

「……」

 誰の姿も無い。

 だけど……

 きっと、あいつらはあの廊下を通ってここに来るに決まっている。どうせいつもみたいに、落ち着き無く、バタバタと走り回りながら。

「大丈夫よ」

 志穂は呟く。

 そう。

 きっと……

 きっと……あいつらは……大丈夫だ。


「……本当に、そうですかね?」


「っ!?」

 いきなり、すぐ側から聞こえた声に、志穂はぎょっとした。

 さっきの少女だ。さっきまで震えていたはずなのに、いつの間にかぴたりとその震えは止まり、顔を上げ、こちらをじっと見つめていた。

「……何、言ってるの?」

 志穂は、少女に問いかける。

「本当に、あの人達、ここに戻って来ると思ってますか?」

「……お 思ってるわよ」

 少女の問いに、志穂は頷く。その声は、少しだけ小さかったし、まるで自分自身に言い聞かせるように不安げだった。

「そうですかね? あのグラウンド、見たでしょう?」

「……っ」

 その言葉に、志穂は、グラウンドの惨状を思い出す。

 無数の『ゾンビ』達で溢れかえったグラウンド。恐らくは生徒達だけでは無く、近隣の住民達も集まっているのだろう。そんな中で……

「そんな中で、たった二人で、生き残れるって、本当に思っていますか?」

 少女が言う。

「もしかしたらもう……二人とも……」

 少女が、ゆっくりと……

 ゆっくりと、志穂の耳元に口を近づけて来る。志穂は、いつの間にか、彼女を抱きしめる手が緩んでしまっていた事を、もの凄く後悔した。

「二人とも、既に、やられているかも知れませんよ?」

「……あ アンタ……」

 志穂は、少女の顔を見る。

「あいつらは、アンタを助ける為に、あそこに来たのに……なんて事を……!!」

 志穂は言うが、少女はくすくすと笑う。

「ええ、それについては感謝していますよ、貴方みたいに、素敵な女性に出会わせてくれた事も含めてね」

「……な 何言って……」

 志穂は言いかけるが、少女はまたくすくすと笑いながら、志穂の耳に口を寄せる。

「あいつら……生きている人間に噛みつくんです、そうして、噛みつかれた人は、あいつらと同じになるんです」

「……」

 その言葉に、志穂は微かに息を呑む。

「あの二人も、多分今頃『噛みつかれて』ますよ、どうします?」

「……ど どうするって……?」

 問いかける。

 少女は、またしてもくすくすと笑った。

「こんなところで、既に『噛まれた』男の子二人を、ずっと待っていますか?」

「……」

 志穂は何も言わない。

 少女は続ける。

「私は、何処へ逃げれば安全かを知っています」

「え――?」

 その言葉に、志穂は思わず少女の顔を見た。

「私と一緒に、そこへ逃げませんか? 二人きりで」

「……」

 志穂は、押し黙る。

 この少女は……

 一体……

 何を、考えているのだろう?

 解らない。

 この得体の知れない状況の中で、どうして……

 どうして彼女は、こんな……

 こんな提案が出来るのだろう? それに……

「……アタシに……」

 じろり、と少女を睨み付ける。

「あいつらを、見捨てろっていうの?」

「ええ――」

 少女は微笑んで頷いた。

「どうせ、来ないんですから、それよりも、私と二人で生き残りませんか?」

「……」

 志穂は、じっと少女の顔を見る。

 少女は、艶然と笑っていた。同じ女である志穂でも、一瞬どきり、とするくらいの笑みだった。

 篤志、そして美雅の顔を思い浮かべる。

 そして……

 志穂は、はっきりと告げる。


「お断りよ」


 その言葉を、合図としたかのように。

 バタバタ、バタバタと。

 慌てた様子で廊下を走る足音が、二人の耳に届いた。

「っ!!」

 志穂は顔を上げ、少女を突き飛ばす様にして立ち上がった。



どうもこんにちは。

KAIN(カイン)です。

あんまりちゃんとここで挨拶していないので、この場を借りてご挨拶を・・・


因みに今回のタイトル、「騙欺」(へんぎ)と読みます。意味は、「騙して欺くこと」です。

そのタイトル通りに、志穂を騙し、二人だけで逃げようとする美咲ちゃんがメインとなったわけですが、どうでしょう? タイトル通りとなっていますかね?


感想、ブクマお待ちしていますm(_ _)m

そしてこれまで感想やブクマを下さった方、本当にありがとうございますm(_ _)m


まだまだ続きますので、よろしくお願いしますm(_ _)m


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ……美咲ちゃんの男性不審がここで出てしまった(;´・ω・) できれば篤志くんや美雅くんも一緒に4人で協力していきたいところだけど、難しいのかな……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ