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犬たちは死者と戯れる  作者: KAIN
第四章:犬たちは死者と戦う

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第三十七話:親友

「うううう……」

 地の底から響く様な呻き声が、(いぬい)()(さき)の口から漏れる。

 志穂は、銃を構えて数歩後ずさった。

 そして……

 椅子から立ち上がった美咲が、両腕を伸ばしてゆっくりと……

 ゆっくりと、こちらに近づいて来る。

「美咲……ちゃん」

 志穂は、小さい声で呟く。

「……うう……うううう……」

 美咲の口から、再び呻き声が漏れる。

 じっ、と、志穂は美咲を見る。

 左の頸動脈辺りが、何かに食いちぎられた様になっていた、多分あそこを噛まれたのだろう。

「……」

 志穂は、美咲をもう一度見る。

 美咲。

 乾美咲だ。間違い無く。こんな狂った世界でも、自分に正直に生きた少女。それは決して、良い事ばかりでは無かった。彼女の行動は、結果としては自分達の為にはなったけれど……代わりに何人もの人を巻き添えにしてしまった。

「……」

 そうだ。

 それでも……彼女の行動は変わらない。

 そして、その目的も変わらない。

 彼女の目的は……ただ一つ。

「……アタシ一人を……」

 そうだ。

 彼女はさかんに、自分を惑わすような言動をして来た。自分と一緒に逃げよう、篤志や美雅を、見捨ててしまえ、とも。

 そんな事を、自分に言い続けた理由、それは……

 それは……

「……アタシが、そんなに気に入った?」

 志穂は、問いかける。

 無論、それには、目の前の『ゾンビ』は何も言わない。

 言うはずが、無い。

 だけど……


『さあ?』


「……」

 志穂の耳には、はっきりと。

 はっきりと、『親友』が、小さく笑いながら言うのが聞こえた。

『どうでしょうね?』

 『親友』の言葉に、志穂は軽く笑う。

「違うわよね?」

 志穂は言う。

「アンタは、アタシをあいつらから引き離して、そして……二人で一緒にいたい、そう言った、それは……」

 志穂は、小さく笑う。

「……両親の事、妹の事、この『ゾンビ』が発生した元凶……どれもこれも、きっと単なる高校生に過ぎないアタシには……受け入れられない事に違い無い」

 志穂は言う。

「だから貴方は、敢えて『悪い人間』になったとしても、アタシを遠ざけたかった、この『戦い』から、そして……アタシを守りたかった、って訳ね」

 志穂が言う。

「……うううう……」

 呻き声が、『ゾンビ』の。

 否。

 『親友』の口から漏れる。

「……アタシは、そんなに『弱く』無い」

 志穂は言う。

 だけど……

『嘘ですね』

 『親友』が、言う。

 その言葉に……

 志穂は、小さく苦笑いした。

「……そう、ね」

 そうだ。

 自分は、『弱い』。

 両親と妹の死を目の当たりにして、あの時、もしも……自分一人だけだったら?

 この『ゾンビ』達との戦いが始まった時、もしも……篤志や美雅、美咲と出会う事が出来なかったら?

 自分は……

 自分は……正気を保っていられただろうか?

 そして……

 自分は、ここまで生き残る事が……出来ただろうか?

 出来なかっただろう。

 結局、自分は『弱い』のだ。

 誰かに……守られなければ……

 誰かが、側にいてくれなければ……

 何も、出来ない。

「……だから貴方は、アタシを守りたかった、アタシなんかの何がそんなに気に入ったか知らないけど、そう思ってくれたのはすっごく嬉しいし、それに……」

 志穂は、じっと『親友』の顔を見る。

 そうだ。

 『親友』だ。

 この子は……『ゾンビ』じゃない。

 自分の……

 自分の……『親友』なのだ。

「……今もこうやって、アタシや、あいつらが帰ってくる場所で、ずっと待っててくれたのは、凄くありがたいって思う」

 志穂は言う。

 だけど……

 志穂は、ぎり、と歯ぎしりした。

「……だけど、その為に、貴方自身が『そんな風』になってちゃ意味が無いでしょう?」

『確かに、そうですよね?』

 美咲の……

 『親友』の声が、する。

『でも、とりあえずは満足ですよ? 私』

 美咲が言う。

「……何でよ?」

 志穂は問いかける。

『最後に、一番好きな人に会えました』

「……」

 その言葉に……

 その言葉に……志穂は……

 志穂は、目をぎゅっと閉じる。

「……こんな姿で、会いたくなかったわよ」

 志穂は言う。

『すみません』

 美咲の声が言う。

『最後に……お願いします』

 美咲が言う。

 そして……

「ううううううう……」

 美咲が。

 否。

 『ゾンビ』が、ゆっくりと……

 ゆっくりと、こちらに手を伸ばして来る。

「……」

 志穂は、目頭が熱くなるのを感じながら――

 手にした銃を、その額に押し当てた。

 そして、ゆっくりと……

 ゆっくりと、引き金に指をかけた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] せ、せめて志穂ちゃんは無事で! 美咲ちゃんとの別れは辛いけど……志穂ちゃんは生き残ってーーー!(; ゜Д゜)
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