表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬たちは死者と戯れる  作者: KAIN
第四章:犬たちは死者と戦う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/40

第三十六話:父子

「あああ……あああああ……」

 (いぬ)(かわ)(こう)(ぞう)が、ゆっくりとした足取りで美雅の方に近づいて来る。

 美雅は銃を構える。

 『ゾンビ』の動きは鈍い。銃を握りしめる手に力を込める。

 本物の銃なんか、手にしたのはもちろん初めてだ。だけどどうすれば撃てるのかは、だいたい把握している。撃鉄を起こし、引き金に指をかける。

 弾は入っている。問題無い。

 美雅は、躊躇う事無く引き金を引いた。


 ぱあんっ!!


 乾いた銃声が轟く。

 だけど……

 放たれた弾丸は、見当違いな方向へと飛んで行き、校長室の奥の方にある窓を割り、ガラスの破砕音を響かせただけだ。

「……っ」

 美雅は舌打ちしながら、すぐに銃の撃鉄をもう一度起こし、目の前の『ゾンビ』に向けて発砲する。

 再び轟く銃声。

 飛び出す弾丸。

 だけど……

 弾丸はやはり……

 やはり……目の前の『ゾンビ』に掠りもしない。

「……あああああ……」

 目の前の『ゾンビ』が、こちらにのろのろと近づいて来る。

 美雅は、銃をもう一度構える。

 早く……

 早くこいつを……

 この目の前の『ゾンビ』を倒して、玉神を追いかけないと……

 篤志は、きっと今頃奴に追いついているだろう。

 そのままきっと彼を捕らえ、今頃屋上に向かっているのに違い無い。

 それに志穂だって、今頃きっとあの乾美咲と合流しているだろう。

 そのまま二人で、屋上へ向かっているに違い無い。

 そうだ。

 自分が……

 自分だけが、友人達に後れを取るわけにはいかないんだ。

 だから……

 だからこの……

 この『ゾンビ』を……

 美雅は、銃の引き金に指をかける。

 だけど……


 かた……

 かた……

 かた……と。


 銃口が……震えている。

 狙いが……定まらない。

 こいつは……『ゾンビ』だ。

 『ゾンビ』なんだ。

「……」

 美雅は、自分に言い聞かせる。

 だけど……

 だけど……


「……ううう……」


 そいつの口から漏れる呻き声。

 それは……

 それは紛れも無く……

 父の……

 犬川浩三の、声だった。

 あの研究所で読んだ記録が、頭を過る。

 父の願い……

 そして……

 どれだけ父が、自分の事を愛してくれていたか。

 それを、知ってしまった。

「……」

 そうだ。

 どんな姿になろうとも……

 今、目の前にいるのは『ゾンビ』じゃない。

「……父、さん……っ」

 美雅は、呻いた。

 目頭が熱くなる。

 涙がにじむ。

 撃てない。

 撃てるわけが無い。

 だけど……

 やらなければ……

 やらなければ、いけないんだ。

 放っておけば、父はこのまま外に出てしまう。そしてそのまま街の外まで向かうかも知れない、そうなれば……

 ダメだ。

 美雅は、首を横に振る。

 父が、このまま他の『ゾンビ』達と同じ様に、沢山の人を襲うなんて……

 そんな姿は見たくない。

 父に、そんな真似をさせるわけにはいかない。

 だから……

「……ここで、止めないと……」

 掠れた声で、自分に言い聞かせる。

 いつの間にか俯かせていた顔を、美雅はゆっくりと上げた。

「……っ」

 引き金に、力を込めようとした。

 だけど……


「……あああああ……」


「っ」

 呻き声が、すぐ近くで響く。

 父が、いつの間にかすぐ目の前にいた。

 慌てて銃を撃とうとする、だけど、涙で滲んだ視界のせいで、上手く狙いが定まらない。

 そして……

 がっ、と。

 もうすっかり、生きている人間のものでは無い、冷たく硬い、死体そのものの手が、美雅の手首を掴んだ。

「くっ……」

 美雅は呻いて、父を振りほどこうとした、だけど……

「あああああああ……」

 父がそのまま、大きく口を開けて迫って来る。

 美雅は咄嗟に身をよじった、だけど、間に合わない。

 そして……

 がりっ、と音がする。

「うぐっ……」

 美雅は、呻いた。

 ぶぢぃっ!! と、そのまま右手の手首と肘の間の肉が食いちぎられる。

「がっ……」

 美雅は、呻いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ~っ!!美雅くーーーんっ!!(; ゜Д゜) お父さんはちゃんと自分を愛してくれていたと知ることができたのに……こんな、こんなことって……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ