表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬たちは死者と戯れる  作者: KAIN
第四章:犬たちは死者と戦う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/40

第三十三話:追跡

「さて」

 玉神の声が響く。

「私は、そろそろここで失礼させて貰おう、あの『研究所』に、まだ取りに行かなければいけない物があるのでね」

 そのまま玉神は、ゆっくりとした足取りで背後の扉を開ける。

 そのままテラスに出、横の非常階段を、カンカンと甲高い音を響かせながら歩いて行く。

「……くっ……」

 篤志は呻いた。後を追わないと……しかし……

「あああああ……」

 部屋の真ん中には、一体の『ゾンビ』が……

 否。

 美雅の、父親がいる。

「……」

 まずは……

 まずは、あの人を……

 篤志は、黙って銃を向ける。

 だけど……

「……何してるんだ?」

 美雅の、淡々とした声。

 そのまま、銃を構えた手首をがしっ、と掴まれる。

「……お前は、玉神を追いかけろ」

「……美雅」

 篤志は、美雅の顔を見る。

「……」

 その美雅の表情は……

 すでに、いつもと何も変わらない無表情になっていた。

「俺は、この『ゾンビ』を片付けたら、行くから、お前は……奴を追いかけるんだ」

「だけど……」

 篤志は、じっと。

 じっと、目の前の『ゾンビ』。

 否。

 美雅の父、(いぬ)(かわ)(こう)(ぞう)を見る。

「大丈夫だ」

 美雅が言う。

 はっきりと、言う。

「こいつはもう……父さんじゃ無い、ただの……『ゾンビ』だ」

「……」

 篤志は、美雅の顔を見る。

 だけど……

 美雅は、顔を俯かせ、篤志に、表情を読ませないようにしていた。

「……だから、俺は……こいつを殺せる、今までの『ゾンビ』達と何も変わらない、大丈夫だ」

 美雅の声は、はっきりとしていた。

「……」

 篤志は、じっと美雅の顔を……

 そして……

 篤志の手首を掴む、美雅の手を見ていた。

 その表情は、読めない。

 だけど……

 微かに見える口元だけでも、美雅の顔が青ざめているのが解る。

 それに……

 自分の手首を掴む美雅の手が……

 微かに、震えているのが解る。

「……お前、本当に……」

 篤志は、口を開く。

「大丈夫だ、だから行ってくれ、篤志」

 美雅が、言う。

「……」

 篤志は、何も言わない。

「あいつは……玉神は多分、車で移動するはずだ、校内にいる間は、グラウンドの奴らに気づかれない様に、ゆっくりと歩くと思うけど……でも……」

 車に乗って、走り出されれば、もう追いかける術は無い。

 だから、校内にいる間に、奴を止めなければならない。

 それは……解っている。

「だから頼む、篤志」

「……」

 このまま……

 ここにずっといれば、それだけ……

 それだけ、玉神を逃がす事になってしまう。

 そうなれば、あの水の……

 『ウィルス』の犠牲者が増えるのだ。

 そして……

 篤志の両親のように、志穂の家族のように、そして……

 美雅の父親と母親のように……犠牲となる人が、増えてしまうのだ。

 行くしか無い。

 行くしか、無いんだ……

「解った」

 篤志は、頷いた。

 そして。

 篤志は手を伸ばし、美雅の頭をがしっ、と鷲掴みにして持ち上げる。

「……解ってると思うけど……」

 真っ直ぐに、篤志は美雅の目を見つめて言う。

「屋上だ、必ず来い」

「……ああ」

 美雅は、頷いた。

 そして……

 篤志は、すっ、と。

 犬川浩三に向けていた銃を下ろす。

 美雅も、その篤志の手首から腕を離した。

「それじゃあ、ちょっと、行ってくるわ」

 篤志は、美雅の顔を見て言う。

「ああ、さっさと行け」

 美雅も、篤志の顔を見て言う。

 二人の少年の口元には……

 笑みが、浮かんでいた。

 そして……


 ぱんっ!!


 二人の少年が、互いの手を打ち鳴らす音が、響いた。


 そして……

 篤志は、だっ、と床を蹴って走り出し。

 美雅は、無言で、浩三に向けて銃を構えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ