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犬たちは死者と戯れる  作者: KAIN
第四章:犬たちは死者と戦う

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第三十一話:対峙

 校内は、しん、と静まり返っていた。

 『ゾンビ』達の姿は、幸いにして何処にも見当たらない。グラウンドに全員が集まっているのか、それともたまたまこの近くにいないだけで、校内にはいるのか、それは解らなかった。

 どちらにしても、奴らがいないのならば好都合だ。

 篤志と美雅は、頷き合いながらそのまま廊下を駆ける。

「……」

 篤志の表情は、まだ暗かったけれど、美雅は何も言わなかった。

 ……今は、信じる以外には無いんだ。

 それだけを、美雅は、心の中で篤志に告げ、そして走り出す。

「……それで……」

 ややあって。

 気持ちの整理をつけたのか、或いは無理をしているのか。

 美雅には、それは解らない。だけど……篤志がゆっくりと口を開いた。

「どうやって、玉神を探すんだ? 校内を全部虱潰しにしてたら、時間がかかるぞ?」

 そうなったら、逃げられてしまう。

 それくらいの事は、勿論美雅にも解っている。

「……」

 美雅は、目を閉じる。

 奴は、『ウィルス』の入った水を人に飲ませ、大量の『ゾンビ』を生み出した。

 その目的はもちろん、『ゾンビ』達の軍事利用だ、ならば……

 ならば当然、自分の目で、実際に奴らがどれほど『戦争』で役に立つのかを確かめるだろう、そうしなければ、意味が無い。

「……この校内で……」

 美雅は、口を開いた。

「一番高いところにあって、グラウンドがよく見渡せるのは何処だ?」

 美雅は、篤志に問いかける。

「……」

 篤志は、小さく笑う。

「滅多に、俺ら生徒は立ち入らない場所だけど、一つだけ、心当たりがあるぜ」

 笑って言う篤志の表情に、もう……

 もう、迷いや暗い雰囲気は無かった。

 志穂の事は吹っ切ったのか、心配するよりは、自分の使命を果たすべきだと思ったのか。

 どちらにしても……

 その明るい表情を、美雅は頼もしく思った。

 そして……

 美雅にも、そういう場所の心辺りが、一つだけある。

「……それじゃあ……」

 美雅が言い、一歩前に進み出る。

「ああ」

 篤志も言いながら、ゆっくりと……

 ゆっくりと、歩き出した。

「行こうか」

「おお!!」

 二人の少年は、まるで……

 まるでこれから、悪戯をするみたいな悪い顔で、ゆっくりと廊下を歩いて行った。


 滝原高校の校舎の三階。

 上級生のクラスの教室が並ぶ廊下……

 その一番奥。

 恐らくは、この校舎の中では一番奥まった場所にある部屋。

 本来は、一階部分にある事が多いが、この学校では、『その部屋』は、三階の一番奥、グラウンドから校門までが、しっかりと見える位置にある、部屋の主が、『ここにある方が、生徒達の姿がよく見えて良い』と言ったという話だった。

「……」

 もしかしたら、『その時』から、『そいつ』は、この『ゾンビ』達の騒動を企てていたのかも知れない。

 篤志と美雅は、階段を上りながら、そんな事を思った。

 まあ、それは今となっては確かめようも無い事だ。

 そして今……

 奴は、多分……

 多分、その部屋にいて……

 じっくりと、見ているのだろう。

 グラウンドに蠢く、『ゾンビ』達……

 そして……

「……」

 篤志は目を閉じる。

 奴らが、どのように動いているか。

 それを、じっくりと見ているのだろう、データーを得る為に……

 篤志は、拳を握りしめた。

 許さない。

 こんな事を、許す訳にはいかない。

 絶対に。


 そして。

 篤志と美雅の二人は、三階の廊下に出た。

 付近は、相変わらずしん、と静まり返っている、『ゾンビ』達の姿は無い。

 篤志と美雅は顔を見合わせると、ゆっくりと頷き合い、ポケットから銃を取り出す。

 そして……

 そのまま、足音をたてないように、ゆっくりと歩き出した。


 三階の廊下。

 その一番奥に、『その部屋』はあった。

 重厚そうな木材で作られた、両開きの扉。

 今、その扉はぴったりと閉じられている、かなり分厚いせいで、中からは何の物音も聞こえない、だが、中からずっと見ていたのならば、グラウンドを通り抜けて自分達が校舎に入って来た事は、きっと既に知られているだろう。

 篤志は、扉の取っ手の片方に手をかけた。

 美雅も、逆側に手をかける。

 そのまま二人は、またしても頷き合い、そして……

 そして。

 同時に、扉の取っ手を回して引いた。


 ばんっ!! と、大きな音が響く。

 そのまま二人は部屋の中に飛び込んだ。

 大きな机。

 部屋の奥にある両開きの大きな窓、その向こうにはテラスと、下の方へと下りる非常階段も見える、有事の際には、ここから生徒達を逃がせるように、と、『あいつ』が造らせたものらしい。

 部屋の壁には、この学校が設立されてから今年に至るまでの、歴代の校長の写真が飾られている。

 その下の棚の上には、何だかよく解らない賞を受賞したらしいトロフィーが並んでいる、篤志達には、一体何の賞なのか、全然興味も無い。

 部屋の真ん中には応接用のソファーとデスク。

 そう……

 ここは……

 この部屋は、『校長室』だ。

 そして……

 こちらに背を向けて、窓の前に置かれた大きなデスクに置かれた革張りの椅子に、悠然と腰掛けている人物。

 それは……

 それは……

「玉神!!」

 篤志が、銃を構えながら叫んだ。

 美雅は、何も言わない、黙って銃を構えていた。

 そして……

 ややあって。

 椅子に座っている人物が、ゆっくりと……

 ゆっくりと、椅子を回転させて、こちらを振り向いた。

「おいおい」

 そいつが、のんびりと言う。

「校長を呼び捨てにするのは良くないなあ、犬山君?」

 言いながら……

 そいつが、ゆっくりと……

 ゆっくりと、椅子から立ち上がる。

「それに、『校長室』に入る時にはノックくらいしたまえよ? おまけに、『そんな物』を校長に向けるとは、君達はそんな『不良』では無い、優秀な生徒だと思っていたのだが?」

 そいつが、くすくすと笑う。

「それとも……」

 そいつの目が、美雅に向けられる。

「君も、優秀では無い、愚か者、という事かな? そう……」

 そいつが、一旦言葉を切り、小馬鹿にしたようにふんっ、と鼻で笑った。

「ちょうど、お父上のように、なあ? 犬川君?」

「……」

 その言葉に、美雅は何も言わない。

 黙って、そいつに……

 (たま)(がみ)(ひろ)(みつ)に、銃を向けた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] とうとう玉神校長と決着をつける時が!!(; ゜Д゜)
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