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犬たちは死者と戯れる  作者: KAIN
第三章:犬たちは死者を知る

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第二十三話:施設

 父の書斎を出た美雅は、ふらふらとした足取りで階段を下りた。

 篤志と志穂は、既に玄関前にいた、家の中に何処にあったものか、美雅は覚えていないけれど、篤志の右手には大きな手提げ鞄が握られている、武器として使えそうな物や食べられる物を、きっとあの中に詰め込んだのだろう。

「大丈夫か?」

 篤志が問いかける。

 美雅は、無言で頷いた。

「……済まんな、勝手な行動をして」

 美雅は、軽く頭を下げる。

「気にする事は無いさ、ああ、鞄借りてるぜ?」

「……構わない」

 篤志の言葉に、美雅は頷いた。

「ちょっと、アンタ本当に大丈夫なの?」

 志穂が、美雅の顔を覗き込んでくる。

「大丈夫だ、少し……考え事をしていてな……」

 それが何なのかは、聞いてこない。

 こいつらは、そう言う時に、そういう気遣いが出来る人間だ。

 美雅は、思う。

 もしも……

 もしも、『兄』の秀治が死ななければ……

 その気遣いは、その『兄』に向けられていたのだろうか?

「……」

 そうなったら……

 自分は、どうなるのだろう?

 解らない……

 そして……

 そしてもう一つ……

 もしも……

 そう、もしも、だ。

 もしも……

 この騒動が……

 始まった原因が……

「……っ」

 美雅は、考え無い事にした。

 とにかく今は、父と母がいる『職場』に向かう事だ。

「行こう」

 美雅は、短く告げる。

 それだけ告げて、美雅は歩き出す。

「……お前、本当に大丈夫なのか?」

 篤志が問いかける。

「大丈夫、だ、早く……行こう」

 美雅は、それだけをぼそぼそと言う。

 言えない。

 言うわけにはいかない。

 それに……

 それにまだ、『確信』だって無いんだ。

 それを確かめる為にも……

 早く、行かないと……

 美雅は、それ以上は何も言わず、二人の顔も見ずに歩き出した。


 街の郊外にある丘の上。

 この街では、『一等地』と呼んで差し支えないであろう地域。

 そこに……その『研究所』はあった。

 『犬鳴研究所』。

 そう記された、入り口脇にある大きなプレート。

 それを見て……篤志も、志穂も、じっ、と美雅の顔を見ていた。

「えっと……」

 志穂が、おずおずと口を開く。

「美雅、くん? アンタの……ご両親っていうのは?」

 志穂が遠慮がちに言う、あの大きな家と、この研究所を見て、すっかり気後れしてしまったらしい、その口調が、美雅には少しだけ可笑しかったけれど、笑う余裕はあまり無かった。

「……ああ」

 美雅は、頷いた。

 そして……

 ゆっくりと、顔を上げる。

「……ここの、『所長』夫婦が、うちの親さ」

 そのまま、すたすたと歩いて行く。

「……」

 篤志と志穂は、顔を見合わせたけれど……

 やがて、おずおずと歩き出す。


 美雅の自宅を後にした三人は、そのまま郊外にあるこの『研究所』を訪れていた。

 美雅の、両親の『職場』である、という……この施設。

 ……ここに来るまでに、一体何匹の『ゾンビ』に遭遇し、やり過ごしたり、美雅や志穂の家から持ち出した包丁を頭に突き刺して仕留めたか。

 それは……もう解らない。

 だけど……

「……少ない」

 そうだ。

 この辺りは、妙に『ゾンビ』達の数が少なかった。

 人もあまりいない区画だから、奴らも去ってしまったのだろう。

 そんな考えは、出来る……

 だけど……

 だけど、美雅の脳裏には……

 もっと……

 もっと、別の可能性が浮かんでいた。

 即ち……


 この区画に現れた『ゾンビ』達は、既にもう……

 この辺りを荒らし尽くして、街に下りていってしまった後なのでは無いか?


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