表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬たちは死者と戯れる  作者: KAIN
第三章:犬たちは死者を知る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/40

第二十二話:書斎

「……二人とも」

 美雅は、後ろにいる篤志と志穂を振り返る。

「この家の中を調べて、食べ物とか武器になりそうなものを探してくれるか?」

「……あ ああ」

 篤志は頷いた。

「……アンタはどうするの?」

「……俺は……」

 美雅は、目を閉じる。

「ちょっと、父親の書斎を調べてくる」

「……」

 その言葉に、志穂は何かを言いかけた。

 けれど。

 篤志が、その肩をぽん、と叩く。

 今は、何も聞かない方が良い。きっと聞いたところで、こいつは話してくれないだろう。

 付き合いの長い篤志は、この親友が……本当に聞かれたくない事は、何があっても絶対に話さない人間だと知っている。

「……解ったわ」

 結局、志穂も折れる事にしたらしい、それ以上は何も言わなかった。

「ありがとう」

 二人に短く言って、軽く笑いかけた後……

 美雅は、じっ、と。

 二階への階段に、目を向ける。


 ゆっくりと、二階に上がり、父の書斎へと向かう。

 二階も、酷い散らかりようだった、廊下にあった観葉植物は倒れ、土がぶちまけられ、窓ガラスは全部割られている、あの『ゾンビ』共はこんな高いところへ、どうやって入ったのだろうか?

 解らない……

 とにかく、今美雅が目指す場所は、一カ所だけだ。

 廊下の突き当たりにある部屋、父の書斎……

 そこの扉を、そっと開ける。

 普段ならば鍵がかかっているはずだが、今は開いている、よく見れば、ドアノブが破壊されているらしい、あの『ゾンビ』達が、ノブを壊した、という事だ。

「……」

 きぃ……と軋む扉を開け、滑る様に中に入る。

 この中に……

 この中に、あるはずなのだ。

 美雅は、目を閉じる。

 そして。

 顔を上げ、書斎を見る。


 書斎の中も、酷い散らかり用だ。

 仕事机と、美雅には良く内容も解らない難しい学術書の類、その中には医学書もあったりするが、ほとんど読んだ事は無い、父はこの書斎にある本全てを読んだ、というのが凄いものだ、と、美雅はいつも感心していた。

 部屋の真ん中に置かれた仕事机に、そっと近づく。

 いつもは仕事で使うノートPCが置かれているが、今日は何も無い。

 万年筆がペン立てに刺さっているだけの、シンプルな机、それ以外にある物と言えば……

「……」

 美雅は、机の上にある物を手に取る。

 写真立てだ。

 美雅と、母、そして父、中谷と小山の二人、五人で庭で撮影した写真。

 父も……自分の事を、『家族』だと思ってくれている。

 自分の事を、『息子』だと思ってくれている……こんな……

 こんな、つまらない人間を……

「……あんたの、跡を継ぐ事も出来やしないのにな」

 そうだ。

 父が働く施設で、自分は働けない……父がすらすらと解ける化学式も、ほとんど自分は解らないのだ、学年トップではあっても……無理なものは無理だ。

 もしかして……

「……」

 美雅の脳裏に、いやな推理が浮かぶ。

 目を閉じる。

 考えてはいけない。

 絶対に、考えてはいけない。

 だが……

 『ゾンビ』。

 そう。

 あいつらは……

 紛れも無く『ゾンビ』だ。

 だけど……

 だけともし……

 『死んだ人間』が……

 『生き返る』としたら……?

「……」

 そして……

 美雅は、手にしていた写真立てを、そっと机の上に戻す。

 そして、父の机の、正面の横に長い引き出しを開ける。

 普段、この部屋で父が仕事をする時は、ドアに鍵をかけている、だから家族といえども、ここには滅多には入れない……

 それに安心しているのか、この机には鍵は付いていない。

 まあ、父はしっかりしているから、最初から盗まれて困るようなものは、この机の中に入れてはいないから大丈夫、という考えもあるのだろう。

 その机の中……やっぱり美雅には、何が書いてあるのかもあまり良く解らない書類が入ってる机の、一番奥の方。

 そこに……写真立てに入れられた、一枚の写真がある。

「……」

 美雅は、じっと……

 じっと、その写真を取り出して見た。

 そこに映っていたのは、一人の少年。

 五歳か、六歳くらいの男の子。

 にこにこと、楽しそうな顔で笑い、写真に写っている。

 写真立ての下の方には、その少年の名前が刻印されている。


 『(いぬ)(かわ)(ひで)(はる)


「……」

 事故で死ななければ、この家の『息子』として育てられ……

 ひょっとしたら、篤志や志穂と出会っていたであろう、この家の長男。

 つまりは美雅の、『兄』だ。

 そして……

 父が何をしているのか……

 その中身は、解らない。

 だけど……

 父が、何に没頭しているのか……

 それは……

 それは、何となく美雅にも解る。

 そう。


「『死者の復活』……」

 美雅は、小さい声で呟く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] え……ま、まさか! 美雅くんのお父さんが死者を蘇らせる研究をしていて……その結果、こんな状況になってしまった可能性!?(; ゜Д゜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ