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犬たちは死者と戯れる  作者: KAIN
第三章:犬たちは死者を知る

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第十八話:姉妹

 同じ頃。

 篤志と美雅は、犬鳴宅の裏庭に来ていた。

 幼い頃、ここに遊びに来た時には、いつもいつもこの裏庭が篤志達の遊び場だった。三人で、時には志穂の妹も交えて四人で、暗くなるまでずっと駆け回っていた。

 あの時と比べて、さすがにもう、少し手狭に見える様になってしまったけれど、それでも……

「……変わらないな」

 篤志は、小さく呟く。

 裏庭の右の端にある桜の木、美雅と篤志はそこで良く、どちらが先に上に登れるかを競い合った事があった、もともと運動が苦手な美雅は、いつも篤志に負けては悔しがっていたっけ……

 そんな事を、篤志は一瞬、懐かしく思い起こしていた。だけど……

 だけど今は、それどころじゃ無い。

「……篤志……」

 美雅の声。

「……ああ」

 それに答えるまでも無く、篤志は……

 篤志は、既に気づいていた。

 美雅の方を見る。

 彼もまた、『それ』を見つけたのだろう。正面をじっと見据えている。

 篤志も……そちらに目をやる。

 その視線の先にあったのは……

 かつては、とても大きく感じられた物置小屋。

 今では、もう篤志達よりも少し小さくすら見えるその小屋の正面。

 そこに……一人の少女が倒れていた。

 物置小屋の正面の扉に背中を預けながら……

 ぐったりと、俯くようにして……

 一人の少女が、そこにいた。

「……」

 それが誰なのか、篤志は……

 そして、美雅は、すぐに解った。


「……」

 そのまま二人は、ゆっくりと小屋に近づいて行く。

 近づいて行くに連れて、少女の姿がはっきりと見えてくる。篤志達も通った、地元の中学の制服を着た少女。今日は日曜だけど、もしかしたら部活でもあったのかも知れない、だから制服姿なのだろう、だけど……

 中学に行く前に……この家に……

「……」

 篤志は、じっと。

 俯いたままの少女を見つめる。

 顔は、俯いてしまっているせいではっきりとは見えない。

 だけど……

 それは……

 それは間違い無く。

「あいつの……妹、だよな?」

 美雅が、小さく呟く。

「ああ」

 篤志は、頷いた。

 そして……

 篤志は顔を上げ、目の前の物置を見る。

 ぴったりと閉じられた物置小屋の入り口、鍵はかかっていない様子だけれど、少女が背中を預けているせいで、中からは、その身体が引っかかって扉を開ける事が出来ないだろう。

「……」

 篤志は、じっと……

 じっと、その小屋を見ていた。

 ややあって……


 ごん……!!


 小屋の中から、壁に何かが……

 否。

 『誰か』が、激突する様な音が響く。

 篤志は、目を閉じた。

 その音の主が誰なのか。

 そして……

 この少女が、何故……

 何故、こんなところで蹲っているのか。

 その理由を、もう……

 もう、篤志は完全に察していた。

 そして……

 今し方響いた大きな音は、多分、家の中にいる『あいつ』にも聞こえただろう。

 二階にでもいたら、『あいつ』の事だから絶対に今の音が、裏庭から聞こえたと気づいて、窓から外を見るに違い無い。そして……

 そしてきっと、気づくだろう。

 ここに蹲るようにして座っている少女。

 物置小屋の中にいるであろう『誰か』。

 それが誰なのか……

 きっと……

 『あいつ』は、気づく。

 気づいて、しまうのだ……

 そして。

 その篤志の考えを裏付ける様に……

 かさ……

 かさ……

 かさ……と。

 裏庭の草を踏みならす音が、背後から聞こえた。

 篤志は、振り返る。

 (いぬ)(なき)()()が、そこに立っていた。


「……果穂……」

 志穂は、小さく呟く。

 物置小屋の正面。扉に背中を預け、俯いて座っている少女。

 それは……

 紛れも無く、志穂の妹、(いぬ)(なき)()()だった。

 志穂も卒業した、地元の中学の制服を着た妹、そういえば今日は、部活があるから、午後から登校しないといけない、と言っていたっけ……

 だけど……

 登校する前に……この家に……

 この家に、きっと……

「『ゾンビ』達に、やられたみたいですね」

 背後からの声。

 (いぬい)()(さき)だ、あのまま部屋に置き去りにしてきてしまったけれど、どうやら後を追ってきたらしい。

「そう、みたいね……」

 志穂は呟く。

 自分が出かけて間もなく、多分、この家に『ゾンビ』達が押し寄せてきたのだろう、もしかしたらその中には、あの島田がいたのかも知れない。

 そして……

 妹は……奴らに……

 そして……

 そして、恐らくは……

「……」

 志穂は顔を上げ、さっきの大きな音が響いた物置を見る。あの中には……多分……

 そして……

「……果穂……」

 志穂は、小さく呟く。

 妹は……

 彼女は、既に……

 そして……

 その予想を、裏付ける様に……

 そして……

 志穂の声に、反応したかの様に……

 妹が……

 犬鳴果穂が、ぴくんっ、と肩を震わせた。

 そのまま、妹が……

 犬鳴果穂が、ゆっくりと……

 ゆっくりと、顔を上げた。

「……っ」

 志穂は、その顔を……はっきりと見た。

 土気色の肌。

 眼球の無い、濁った白目だけの瞳。

 そして……

「ああ……あああああああ……」

 大きく開かれた口から漏れる、気味の悪い呻き声。

 だけど……

 だけどその声は……

 紛れも無く、妹の……

 そう。

 ずっと……

 ずっと昔から聞いてきた、妹の声……

 ややあって。

 妹が……

 ゆっくりと、立ち上がる。

「ああああああ……」

 呻き声と共に……

 犬鳴果穂が……

 大きな口を開け、志穂に噛みつこうと……

 その腕を、伸ばして来た。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁぁあ……あ、……果穂ちゃん、無事じゃなかった……(; ゜Д゜)そんなぁーっ!
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