第一話:目覚
皆様、初めましてm(_ _)m
KAINと申す小説書きです。
うわ~書いちゃったよ……ってのが第一印象……
因みにこの作品は、去年の電撃小説大賞に応募して落選した作品です。
連載は不定期になりそうですが、お付き合い頂ければ幸いです
「……」
泥沼の底から浮上するような、なんとも言えない気分の悪い感覚――
犬山篤志は、そんな感覚に嘖まれながら、ゆっくりと目を覚ました。
そのままベッドの上に身を起こす――気分の悪い目覚めだ。頭が酷く重く、何だかとても疲れていた。嫌な夢でも見ただろうか? だが、あまりよく覚えていない。
篤志はそのまま、ゆっくりとした足取りでベッドから下りる。
ふらふらと、見慣れたフローリングの床の上を歩き、黙ったまま窓の前に立ち、そのまま窓を開ける――
ふわり――
朝の爽やかな空気が、室内にそっと流れ込み、昏く沈んでいた気分が、ようやく少し落ち着いてきた――もう春先とはいえ、まだ朝は少し冷える――その冷たい空気が、まだ眠りの中にいた篤志の意識を、少しずつ覚醒させる。篤志は息を吸い、その爽やかな空気を胸一杯に吸い込んだ。
ややあって――
肌寒さを感じた篤志は、そっと窓を閉めた。
そのまま再び部屋を歩き、ベッドにもう一度腰を下ろす――
壁に掛けられた時計を見る。朝の七時ジャスト。平日ならば、高校二年生という年齢の篤志は学校へ行く支度をしなくてはいけない――
が、今日は日曜日だ。学校では補習授業が行われているけれど、学年二位という成績の篤志は、当然受ける必要は無い。
「さて――」
目を覚ました時の、少し陰鬱な気分を吹き飛ばすように、篤志は無闇に明るく言いながらベッドから立ち上がる。
「これからどうしようか――」
言いながら、ふと思い出す――そう言えば……
「父さんと……母さんは?」
篤志はぽつりと呟き、そっと扉を開けて廊下に出た――
廊下に出た途端――ひんやりとした空気が、篤志の全身を包んだ。
思わずぶるっ、と身震いする。
「……?」
頭の中に、疑問符が浮かぶ。
静かだ――
篤志の部屋は、二階の一番奥――その隣は父の部屋になっている。いつもの休日ならば、その父の部屋からテレビの音が聞こえていたり、母が下の階で家事をしている音がしていたりするはずだ。
だけど……
今、家の中からは何の音もしない――
そればかりか……まるで人の気配が無い。
父も母も、どこかに出かけてしまったのだろうか?
否。そんな事は無い。父も母も、出かける時は必ず自分に言ってから出て行くはずだ。
自室のすぐ横にある、父の書斎の扉をそっと開ける――
「……父さん?」
室内に向かって呼びかける。
だけど――誰もいない。
「……」
篤志は、そっと扉を閉める。
嫌な予感が、胸の中でざわざわと膨らみ始める。
何が……
一体、何があった?
父に――
そして……母に――
何が――
篤志は、ゆっくりと視線を廊下の先――父と母の寝室へと向けた。
ごくり、と唾を飲み込み、そっとそちらに向けて足を踏み出す――
自分の家の廊下だというのに、まるで泥棒の様に足音を忍ばせながら、数分かけて、ようやく篤志は両親の寝室の前で足を止めた。
そっと扉に耳を当てる。
何の音も聞こえない――父も母も、やっぱりいないのだろうか? それともまだ、この部屋の中で寝ているのだろうか?
解らない――篤志は扉から耳を離し、ノブに手を伸ばす――
「……っ」
その手が、微かに震えていた――
力が、入らない――
それでも、ノブをしっかりと握りしめる――室内からは何の音も聞こえない。
手の震えは、いつの間にか身体全体の震えに変わっていた――得体の知れない恐怖が、篤志の心の中に、ぞわぞわと忍び込んで来た。今すぐに、このドアから離れ、自室に戻り、ベッドの中に入って、毛布を頭から被って眠ってしまいたい――そんな衝動に駆られる。
だけど……
篤志は、ゆっくりと目を閉じた。
両親の顔を思い浮かべる。
貧乏だったけど、自分に十分な愛情を注いでくれた父と母、自分が不自由しないようにと、いつも気を遣ってくれた、この家を建てる時だって、本当はそんな余裕なんか無いくせに、わざわざ一番端の、一番日当たりが良い場所に部屋を造ってくれたのだ、それだけでも家計はかなりの打撃を受けたろう、それなのに両親は、今の高校を受験させてくれたのだ。『偏差値が高くて、将来に有利なるから』と言って――
けれど、本当の理由を篤志は知っている――
幼なじみの親友が二人、その高校に通っているからだ――ずっと小さいときから一緒にいた親友二人――家に金が無いなんていう理由で、ずっと一緒にいた彼らと離れる事になるなんて、そんな悲しい思いはさせられない。そんな風に思ったのだろう――
「……」
父は、そんな家族を支える為に、いつもいつも夜遅くまで仕事をし、疲れて帰って来る。それでも休みの日には、きちんと起きて、家族と一緒にいてくれる――
母も、そんな父と、自分をいつもいつも支えてくれる。家事も炊事も、きっと辛いに違いないのに、自分や父に泣き言を言った事など一度も無かった――
そんな両親に――もしも……
もしも、何かがあったのだとしたら――?
篤志は、ぶんぶんと頭を振った。
そうだ。
このまま、何が起きたのか確かめずにいるなんて出来ない。
父と母の安否も解らないままにしておくなんて――自分には、絶対に出来ない。
篤志は、ゆっくりと息を吐いた。身体と手の震えは、いつの間にか止まっていた。
いつの間にか手を離しそうになっていたドアノブを、もう一度しっかりと握りしめ、ばんっ、と大きな音と共に扉を開けた――
そのまま勢いよく寝室に飛び込む。
「母さんっ!! 父さん!!」
大声で呼びかける。もしも二人がこの部屋の中で寝ていたのなら、この大声で起きてしまうだろう――別にそれでも構わない、二人とも元気で、この部屋の中で寝ているだけならば、それで構わない――
そう思いながら、篤志は二人のベッドの方を見た――