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その九十七 お福

小早川の家老、稲葉正成は松尾山の山頂から人質にとった秀秋と共に西軍が壊滅する様を眺めていた。


三成の本陣がある笹尾山の陣地が次々と落ちていくのが見えた。


秀秋は暗たんとした気持ちになった。


・・・・ 某の力が及ばぬばかりに、大谷殿、宇喜多殿、小西殿、そして三成殿も破滅させてしまった ・・・・


稲葉が秀秋を振り返って言った。


「殿、この勝利はひとえに我ら小早川の働きによってもたらされたもので御座いまする。

殿には内府様より相応の褒美が(たまわ)られるに相違ありませぬ。

殿は大威張りで頂戴してよろしいので御座います、家中の者や国許の家族もこれで安泰で御座います」


秀秋はこの独善的な家老に皮肉のひとつも言ってやらねば収まらなかった。


「それは其の方の若い後妻の"お福"のことを申しておるのか」


秀秋にずばり指摘されて稲葉正成は苦笑した。


「其の方は"お福"を後妻としてより急速に内府に傾いたようであるが、全て"お福"の差し金であったのではないのか」


「何を言われます、お福はまだ小娘に御座いますれば政治向きのことなど疎う御座います」


そう言いながらも稲葉は今こうして無理やり秀秋を東軍に寝返らせたは確かにお福の入れ知恵に相違無いと思い当たった。



・・・・ 正成殿、次の天下様は徳川様に間違いのう御座います、ゆめゆめお間違いなさいませぬよう ・・・・



お福が口癖のように正成に吹き込んでいた言葉である。


稲葉は(かぶり)を振って否定した。


「某は殿と小早川を案じて平岡殿と共に徳川への御味方を御勧め致したので御座います」


秀秋の方を向いて言い訳する稲葉の視界に麓から戻って来た平岡の姿が見えた。


平岡はたいそう慌てていた。


「稲葉殿、急いで奥平の遺骸を運び出すのだ」


関ヶ原の趨勢はほぼ決していた。


「いかん、そうであった。このような所に遺骸があっては小早川に内部抗争があったことが内府に知れる」


そう言って二人の家老は兵に命じて奥平の遺骸を関ヶ原に捨ててくるように命じた。


「奥平殿には出奔した松野主馬に代わって第一軍の指揮を取ってもらったことといたそう」


「うむ、討ち死になら問題なかろう」


・・・・ 愚かな、その程度の偽装で抜け目の無い内府の目を(たばか)れると思うておるのか ・・・・ 秀秋にはもう、どうでもよかった。


二人の家老達は奥平と共の死体を処理するとようやく秀秋にかしずいた。


「殿、此度のご無礼何卒お許しを」


「小早川の御為にはこうするより仕方の無かったことは、殿にもお判りいただけたものと存じます」


秀秋は何も答えず、悲しそうに眼下の殺戮(さつりく)の光景をその目に焼き付けるのであった。



・・・・ 後世、人々はこの秀秋を何と評するであろう ・・・・ 主家を裏切った卑怯者 ・・・・ そんなところであろう ・・・・

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