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その九十五 主馬離脱

「道は下り坂だ、駆けよ駆けよ」


騎乗する松野重元に率いられた小早川第一軍は松尾山の山頂から関ヶ原へと続く山道(さんどう)を駆け足で下っていた。


・・・・ 急がねば時期を逸する ・・・・


狭い山道ゆえ武装した兵士二人が併走すると、いっぱいいっぱいである。


雑兵たちは駆けながら自分達がどこを相手に戦をするのか口々に言い合ったいた。


「徳川からは目付けの軍監が遣わされていたはずだぞ。ここは徳川に付くのが御家(おいえ)の為だろう」


「しかし俺たちの大将の主馬(しゅめ)殿は確かに豊臣に御味方すると言われて先頭に立たれたぞ」


「そりゃーそうだろう、我が殿は豊臣家の第二位後継者の御身分なのだからな」


駆け下りる雑兵たちは自分達がいったいどちらに味方するのかよく分かっていなかった。


約千名に及ぶ第一軍の行列は伸びに伸び先頭が山裾に到着した頃、最後部はまだ山道半ばであった。


騎乗して追いかけた家老の平岡頼勝一行は麓の手前で最後尾に追いついたが第一軍を追い越すに追い越せず苛立ちが募った。


関ヶ原から山影になる開けたところで隊長の松野重元は一旦進軍を止め、隊形が整うのを待った。


最後尾をようやく追い越した家老の平岡頼勝らが松野の元へ駆け寄った。



主馬(しゅめ)殿、そこまでで御座る」


平岡の姿を見止めると松野はしまったと思った。


「殿は御心変わりされた。敵は大谷刑部少輔と宇喜多中納言、そして首領の石田治部少輔である」


「おのれ平岡、家臣の分際で殿をどうした」、松野重元は秀秋を本陣に残してきたことを悔いた。


「殿は稲葉殿と御一緒で御無事で御座る、 ・・・・ 今の処は。

其の方の返答次第ではどのような仕儀となるかは保障できぬ。

さっさと第一軍を指揮して殿の御命令通り大谷軍に突入せよ」


兵達は息を呑んで二人のやり取りを見守っていた。


「そんなことが聞けるか」、そう言って松野は抜刀すると家老の平岡に切りかかろうとした。


平岡が叫んだ、「鉄砲、主馬(しゅめ)を撃て」


 

兵達は隊長の身分の松野ではなく家老である平岡の命令に従わざるを得なかった。



鉄砲隊はやむなく松野重元を目掛けて至近距離から発砲した。


「おのれ平岡、必ず後悔することになるぞ ・・・・ 」


兵達はわざと狙いをはずしたのであろう。


松野重元は僅かの側近だけを連れて、やむなく戦列を離脱して北国街道を北に遁走していった。



平岡頼勝は共に駆け下りてきた腹心達に命じた。


「お前達はこのまま第一軍を指揮して一番近い大谷吉継の部隊に攻撃を仕掛けよ。

出来るだけ派手に仕掛けるのだぞ。さすれば予め徳川と内通しておる者達が呼応して加勢に加わって来よう」


攻める相手はころころ変わるは、隊長は兵を残して遁走するはで第一軍は士気も上がらぬまま大谷吉継の精鋭部隊に向かって統率も取れない有り様で攻め込んで行った。


その様子は松尾山からも笹尾山からも家康の本陣がある関ヶ原の真ん中からも見えた。


関ヶ原に居合わせた者全員が小早川の動向を察したとき、それまでの関ヶ原を覆っていた膠着した空気がぐらっと揺れて一気に東軍の追い風に変わった。


「 ・・・ 松尾山で何か御座ったな、後で貞治に問わねばなるまい」


家康は力を込めて踏ん張っていた(あぶみ)を踏む力を緩めると、すでに頭の中は戦後処理へと興味の大半は移っていた。


家康にとっての関ヶ原はここで終わった。



しかし関ヶ原が本当の修羅場と化すのはまだまだこれからなのである。


すでに勝利を収めたつもりの家康とてまだ安心は出来ない。

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