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その八十 太閤の逆鱗

「何と申した将右衛門」


秀吉は今だかつて無い怒りの表情で前野長康を睨みつけた。


太閤秀吉の最古参の家臣、"前野将右衛門"の一命を賭しての言上は無残に踏みにじられた。


長康は関白と太閤の関係修復を願って単身伏見城を訪れていた。


長康の言上した提案は幼少の秀頼君が成人するまでの間は秀次が後見として関白を務め、その後は秀頼に関白職も豊臣家も譲り渡し隠居するという至極順当なものであった。


秀吉も秀頼と秀次の娘を婚約させることで豊臣政権を円滑に秀頼に引き継がせようとしていた。


秀吉の逆鱗に触れたのは、和解の内容とは別のことであった。


それは、秀次が秀吉の過去を暴こうとしていることが漏れ伝わって来たことである。


秀吉の詰問に対して秀次家老の長康は、「秀次様は関白職に邁進(まいしん)する内に太閤殿下の御出生の核心にたまたま迫ってしまったので御座います」、と秀次を庇う返答をせざるを得なかった。


しかし秀吉は秀次の心に芽生えた叛意を見抜いていた。


「おのれ秀次め、大政所への御恩返しの為に関白にしてやったのに、予の出自(しゅつじ)を疑い追い落とそうとするとは畜生にも(もと)る恩知らずめ。

将右衛門、其の方が(そば)に付いておりながら何という失態、斯様(かよう)な事態とならぬ様、其の方を秀次に付けた我が意が解らぬそちでは在るまいぞ」


長康はただただ平伏するのみであった。


ことここに及んでは秀吉は如何なる理由をこじつけてでも秀次を排除するしかなかった。


大政所や大和大納言が存命であれば事態はここまで悪化しなかったかも知れない。


秀吉は覚悟を決めた。


己の出生(しゅっしょう)の秘密に迫る者はたとえ縁者であっても一族諸共粛清すべしと。


まだ幼い秀頼に豊臣政権を順当に引き継ぐための"中継ぎ役"をさせようとしていた秀次が、自ら墓穴を掘って失脚することによって、

事態は豊臣家の行く末をを最悪の方向に捻じ曲げていく事になる。


秀吉の胸中に家康のほくそ笑む姿が思い浮かんだ。


新たな手を講じておかなければならなくなった。


しかし、秀吉にはそれほど多くの時間は残されてはいなかった。

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