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その七十八 破滅への一歩

文禄四年(1595年)七月 聚楽第


「其の方なら叔父上の素性について何か知っておるはずだ、将右衛門(しょうえもん)


秀次に詰め寄られて前野長康は返答に窮した。


秀次は淀の方が二人目の子となる秀頼を産んだことで、自分には後が無いことを悟っていた。


・・・・ 叔父上は必ず自分を排除に動く ・・・・


秀次はこれまでの秀吉のやり方から自分は必ず詰め腹を切らされると確信していた。


・・・・ 利休殿の様に ・・・・


「利休殿はその明晰さで叔父上の出世に関わる秘め事の核心に迫ったのであろう。叔父は秘密を守るために武人でもない利休殿に腹を召させた」


秀次は幼少の頃より文武に秀で、戦国ゆえの養子縁組で他家を渡り歩かされてもその利発さが幸いしてどの家中でも大切にされてきた。


全て幼い頃から学問を授けてくれた祖母の大政所(おおまんどころ)のお陰であった。


母の智子も聡明な(ひと)であったが、弟である太閤について何かを語ってくれた記憶は無かった。


秀次は自分の経験から(かんが)みても、叔父の秀吉が貧しい農民から出世して関白にまでの昇りつめたなどと云うことは到底信じられなかった。


「将右衛門、其の方は叔父上が織田家に仕える以前より叔父上に付き従っていた衛士なのだろう。

大政所様の学問作法の知識は武家どころか並みの公卿以上であった。

我も関白となってより多くの公卿や茶人・歌人などの文化人と関わるようになってはっきり判った。

大政所様は御所の相当身分の高い公家の娘か女官であったのに違いないと」


長康は秀次の推察が的を得ていることに驚いた。


「織田家の躍進と叔父上の出自(しゅつじ)には何か関係があるのではないか。

信長公は朝廷の力を巧みに利用して勢力を拡大した。

それが過ぎて朝廷をも(ないがし)ろにしようとしたことが織田家没落の原因であろう」


「秀次様、そのようなことどこで吹き込まれました、不用意にそのようなご発言をなさるとお命に関わりますぞ」


長康がたしなめようとしても秀次は、「御所内では公然と語られておる。信長公は朝敵として惟任日向守これとうひゅうがのかみに討たせたのだと。

そして叔父上が日向守を反逆者の大儀名分で討ち果たした。

朝廷と叔父上は実は最初から組んでおったのではないのか。

最初から公家の血を引く叔父上を武家の頭領に据えるために仕組まれたのが本能寺だったのではないのか。

そうとでも考えなければ農民上がりの叔父上が関白にまで登り詰められるはずが無い」


「秀次様」、将右衛門は秀次が危険な領域に首を突っ込んでいると恐れた。


「将衛門、其の方いつから叔父上の警護を任されたのだ、叔父上が織田家に潜り込むときには小六共々すでにその配下にあったのであろう。

家来も雇えぬほど貧しかったはずの木下藤吉郎にそなた達ほどの熟達の戦士を雇う身分も金もあったはず無かろう。

おかしい。おかしいではないか」


将右衛門は追い詰められた秀次が窮鼠猫を噛むの例え通り太閤から実力で実権を奪おうとしているのではと危惧した。


「秀次様は太閤殿下の秘密(・・)をお知りになって、いったい何をなさろうというのでありまするか」


・・・・ やはり秘密(・・)があるのだな ・・・・


秀次は不敵な笑みを浮かべて答えた。


「もちろん己の身は己で守るのよ」


しかしそれは秀次にとって破滅をもたらす思いつきであった。

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