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その七十七 駒姫

文禄四年(1595年)八月 三条河原


「何を躊躇(ためら)っておる、ひと思いに胸を刺し(つらぬ)かぬか」


三成の(りん)と響く甲高(かんだか)い声が刑場に響き渡った。


刑の執行には慣れきっているはずの刑吏達でさえ、その手はぶるぶると震えていた。


最初に処刑されたのは年端もいかぬ幼子達であった。


両腕を抱えれられた子らを次々と執行人の手槍が背後から差し貫いた。


「なぜわれらから殺さぬ」


母親達は半狂乱となって自分達から殺してくれと叫んだ。


中にはすでに正気でない母親も見受けられた。


子らの処刑が済むと母親と側女(そばめ)達の番であった。


順に一人づつ引き出され次々と三条河原の露と消えていった。


皆、首を落とされる前からすでに魂は抜け去り死人(しびと)同然であった。


二つに分かれた遺骸は包まれることも無く刑場脇に掘られた大穴に無造作に投げ込まれた。


妻女達の遺族は遺骸を貰い受けることさえ許されなかった。


最初は野次馬気分で集まった都の人々も此度(こたび)の処刑はいつもとは様子が違うことに凍りついた。


野次を叫ぶもの一人としていない静寂の中で首切り役人の"えい"の掛け声だけが響き渡っていた。


見物人の中に女子供の姿はすでに無かった。


やがて静まり返っていた見物人が十六人目の罪人を見てざわめき出した。


(こま)姫であった。


ほっそりとした首の上に、雪の様に真白な小さな顔が乗っていた。


うつむいて表情を消しているが、その姿の美しいこと。


・・・・ 秀次様の測女(そばめ)にあのような気品溢れる娘がおったか ・・・・


三成は処刑者を書き記した書面を取り出し見た。


十六人目には三成も見知った別人の名前が(しる)されていた。


怪訝なそぶりの三成に京都奉行の前田玄以(げんい)が小声で囁いた。


最上(もがみ)の駒姫に御座る」


書面をよく見ると最上駒(もがみこま)の名は一番最後に書き足すように(しる)されていた。


・・・・ 噂に名高い出羽守(でわのかみ)殿の御息女か ・・・・


三成は何度も足を運んだはずの聚楽第で駒姫に会ったことなど一度も無かった。


「治部殿、何かお気に掛かる様でしたらあの者は後に回しましょうか」、と玄以が聞いた。


一瞬考えた三成は、「いや、それには及びませぬ」、と処刑を続けさせた。


・・・・ まるで北庄城(きたのしょう)から落ち延びて来られた頃のお茶々様のように美しい ・・・・


三成の脳裏に羽柴家の若侍だった頃の記憶が蘇った。


・・・・ 太閤殿下があの姫をご覧になったら刑場に飛び込んで行って止めるであろうな ・・・・


そう三成は思ったが、自分にそのような権限は無かった。


駒姫はいよいよ刑場の真ん中へ引き立てられてきた。


見物人の中からはすすり泣く声や念仏を唱える声が漏れ聞こえてきた。


駒姫にとって会ったことも無い秀次に連座しての仕置きであった。


あまりにも理不尽な処刑である。


にも関わらず駒姫は、一切取り乱しもせずに(むしろ)の前に引き出され膝まづいた。


(むしろ)はすでに幾多の血飛沫(ちしぶき)を吸って赤黒く汚れていた。


なぜこのような理不尽な仕儀となってしまったのか。



それは秀吉の出生の秘密に由来していた ・・・・

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