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その六十九 浅井の姉妹

大津城に井伊直政の使者が大坂方の目を避ける為に船頭を装って訪れたのは、高次が西軍の一武将として大谷吉継と共に北陸の守備に赴く前日のことであった。


「京極殿に徳川内大臣様より何卒東軍への御加勢の儀を、お願い致したくまかり越しました」


微妙な立場にある高次は迷惑に思ったが使者を丁寧に遇した。


すでに大坂方が支配を固めている南近江まで辿り着くにはさぞ命がけであったろうと察せられた。


使者は前置きも無く口上を述べた。


「京極殿には東軍先鋒として大津城に籠もり、大坂方諸将の足止めを致されるようにとのご依頼に御座います」


高次は困惑して問い返した。


「内府殿は孤立無援で某に捨石になれとでも仰せか」


使者は懐深くから一通の書状を取り出すと高次に差し出した。


「徳川秀忠様御正室より、奥方様への書状に御座います。先ずは奥方様と共ににお読みになっていただいた上で、ご返事をたまわれとの言い付けに御座います」


高次のこれまでは失敗続きの人生であった。


鎌倉より続く名家であったのに浅井に領国を奪われ、明智については負け、いつも負け組みに身を置いてきた。


今度ばかりは負けるわけにはいかぬ。


高次は兵員の動員数、総石高、地の利、それに秀頼を奉じる大儀名文があることからいっても当初から西軍が優位と見ていた。


皆は嫌っているが治部少輔とは同じ近江の育ちで気が合ったし、隣国の(よしみ)もある。


つい先日も酒を酌み交わし固く同盟を誓ったばかりである。


心は変わらぬ。


高次は使者から書状を受け取ると、妻のお初が控えし五層四重の天守に一旦消えた。


小半時もたたずして高次は使者が待つ書院の間に返した。


使者は近づく高次の踏み鳴らす力強い足音を聞いただけで色よい返事が得られることを確信していた。


「内府殿の策をお聞かせ願おう」


高次は先ほどと打って変わって前のめりに使者の話を聞く態度を示した。


はたして三女お江から姉お初への書状には長女のお茶々の出生の秘密が語られていた。


舅の家康がお(ごう)に書かせたものである。


・・・・ 姉上様、近江と江戸に遠く離れ離れに居ようとも、われら浅井の姉妹の絆には些かの翳りも御座いませぬ。

ただ、残念ながらお茶々(ねえ)には浅井の血は一滴も流れておりませぬ事が判り申した。

お初姉は大坂城のお茶々姉に御味方なさるか、それとも私がおります徳川に御味方なさるかでで御腐心なさっておることと存知まする。

しかし、御迷いになるには及びませぬ。お茶々姉の父親は我等の父と兄の万福丸を無残に(あや)めた織田信長その人にございます。

兄上の無残な最後をよもや姉上は忘れではありますまい。どうか越前北庄城(きたのしょう)で母上が申し残されたお言葉を思い出して下さいませ。

『決して浅井の血を絶やしてはならぬ・・・・』母上は何度も私達にそう言われました。

浅井の血を受け継ぎしは姉上様と私だけに御座います。

そこのところくれぐれも御勘案下さいますようお願いいたします ・・・・


高次のこれまでの人生もひたすら京極の家名を残す為だけにあった。


妹の竜子を秀吉に差し出してまで保ってきた京極家である。


お初と高次の宿命が一致した以上もはや迷いは無くなった。


・・・・ 今度ばかりは付く相手を間違えるわけにはいかぬ ・・・・


(ごう)からもたらされた淀の方の出生の秘密は、お初をして夫高次を徳川に向かわせた。

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