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その五十六 兆発

「正信、治部少輔がこれほど我慢強いとは些か想定外であったの」


家康は苛立ちを隠せぬ様子で正信に問うた。


「御意に、」


正信も過去の三成であるならとっくに不穏な動きが現れて来ねばおかしいと感じていた。


「すでにこちらの意図が読まれているのではあるまいな」


家康は心配になってきた。


「三成が相手でなくては清正や正則は徳川に加勢しにくかろう。

次の戦は表向き豊臣家内部の内輪もめとしておかなければならぬ。

大っぴらに徳川が天下を狙ったと見なされては付いて来ぬ大名も出てこよう。

勝負は時の勢い。筋書きに(あり)の一穴とてあってはならぬ」


家康の心配をよそに正信は余裕たっぷりであった。


「上様、御心配いには及びませぬ。此度は徳川にとって待ちに待った天下取りの勝負の時。

かつての信長公の桶狭間、いやそれ以上の大勝負でございます。

さすれば、備えは二段構え三段構えにございます。三成めも必ず出張って来ざるを得ぬよう仕掛けてございます。

秀頼君の守役、片桐旦元はすでに上様に絡めとられ、三成失脚後の豊臣家家老への野心を焚きつけられております。

上杉景勝様には直江兼続めが、東北の覇者と越後奪還の野心を焚きつけております。

宇喜多秀家様には我が次男・政重めが食い入り、前田家と共に豊臣の執権となるべく野心を焚きつけております。

先ず、上杉に挙兵させ、豊臣大名もろとも大阪を留守に。

その隙を突いて宇喜多に決起させ、秀頼君を担いで徳川を一気に葬る好機と欺き、三成を引っ張り出しまする。

さすれば徳川に靡く日和見の豊臣大名たちも三成憎さを建前に時の権勢徳川に安心して従いまする。

もちろん秀頼君総大将などという梯子(はしご)は寸前ではずされ、三成は決起の首領として我々と対峙しなくてはなりますまい」


家康の顔に幾分安堵の表情が戻った。


「天下取りとはかくも難儀なものであるとは、信長公や太閤の苦労がいまさらながら偲ばれる」


戦国最後の小田原攻めから十数年、国内で大きな戦は行われていこなかった。


太閤の治世の中ですっかり平和ぼけした大名・諸侯に、一族郎党の命運を賭して天下の趨勢を決っする気概などとうに失せていた。


今はどっぷり漬かった平和の恩恵を如何に強者に擦り寄って己が宗家を維持継続するかに汲々とする者ばかりとなっていた。


信長が見たらさぞ嘆き悲しむ有様であったろう。


いまは、その信長直系の秀頼が天下分け目の朱色の輿(・・・・)に担がれようとしていた。

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