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その四十一 攻防二条御所

天正十年(1582年)六月二日未明 妙覚寺


「安土まで退いたところで、いったいどれだけの兵がついて来よう」


それに安土の城ではとても明智の猛攻を防ぎきれまい。


信忠は一刻も早くお逃げくだされという家臣達の言葉を否定した。


残念ながら信忠の頭に安土以外の退却先は浮かばなかった。


頭は良いが機転が利かぬのが、この男の生死を分けることなる。


そしてこの国の今後四百年間の道筋を大きく変えてしまうこととなる。


「日向守はなぜこちらに攻めて来ぬ」信忠でなくとも不思議であった。


もし織田を滅ぼし己が天下を狙おうというのなら、織田家跡目である信忠もまとめて討ちに来ねば筋が通らぬ。


父、信長に対する恨みを晴らすためだけに、日向守がこのような大それたことを為すとは到底考えられぬ。


あ奴が意味の無い手落ちなどいたすはずがない。


考えろ、考えるのだ信忠、父はもう身罷(みまか)っておるのだ、織田の命運は己がこのときの判断にかかっておるのだ。


信忠の判断は正鵠を得たものであった。


ただし、その後の対処で大きくつまづくこととなる。


「此度の日向守の謀反は朝廷が裏で糸を引いておるに違いない。


我らを攻めて来ぬのは二条御所の誠仁親王(さねひとしんのう)に類が及ぶのを恐れてのことであろう。


我らはこれより、二条御所の誠仁親王(さねひとしんのう)と、御所の天子様を人質として日向守に謀反を断念させる」


妙覚寺を出た信忠軍千五百は目と鼻の先の二条御所になだれ込んでたちまち占拠した。


二条御所は元々が織田家の京都別邸であったものを誠仁親王に譲ったものである。


信忠はじめ織田軍にとっては勝手知ったる我が家も同然であった。


殿中を調べさせたが特に変った様子は見られなかった。


誠仁親王は普段通り寝殿で起居していた。


信忠と会った親王は、騒乱後の信忠の素早い保護(・・)を感謝する言葉を述べられた。


誠仁親王(さねひとしんのう)の態度からは朝廷の関わりを臭わせるものは何一つ覗えなかった。


信忠は窮地に立たされつつあった。


誠仁親王が事前に何等備えをしていないということでは朝廷関与の動かぬ証拠が無い。


逆に無関係の誠仁親王を人質に取るは、自分から朝敵の汚名を被りに来たようなものである。


ここでも信忠の生真面目で融通の利かぬ性格が仇となる。


構わず親王の首を打ち、当初の予定通り御所に押し込み、天子を人質とすれば血路が開けたものを、ぐずぐずしている間に本能寺から移動してきた明智軍に包囲されてしまったのだ。


すぐに光秀からの使者が遣わされて来た。


「このたびの騒乱は、惟任日向守光秀が織田信長様の許しがたきお振る舞い此れありてやむなく御成敗致したもの。

武家同士の私闘に天子様の親王様を巻き込むのは武士として末代まで御敵の謗りを免れなきことにて速やかに親王様を解放されよ」


万事窮す。


光秀と信忠では役者が違いすぎた。


信忠は親王を人質にしたまま朝敵として討たれるか、親王を解放して武士の面目を保って死するかのどちらかしかなくなった。


どちらにしてもあるのは死である。


「何たる失策、無念である」信忠は少しでも後々の織田家の面目が立つようにと、誠仁親王(さねひとしんのう)を朝廷と親密な連歌師、里村紹把(じょうは)のよこした輿に載せ引き渡した。


紹把がなぜ頃合良く輿まで仕立てて現れたのか疑う余裕すら無かった。


勿論、光秀と紹把が以前より昵懇(じっこん)で、つい先頃も愛宕権現で百首連歌会を催していたことなど知る由も無かった ・・・・

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