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序の参 復讐

・・・・ 母上とのお約束、このお茶々けっして忘れはいたしませぬ ・・・・


いよいよ太閤の側室と上がる日、お茶々は心の中で亡き母に固く誓った。


お茶々の記憶に残る"お市"は、生前藤吉郎のことを心底毛嫌いしていた。


幼心にお茶々は秀吉が猿顔の成り上がり者ゆえと思っていたが、それだけではなかったようだ。


お市は戦国一の美女とうたわれていたが、ただ美しいだけの女ではなかった。


市の兄の信長は、「市は男に生まれておらば間違いなく名だたる武将となっていたであろう」、と評したほどであった。


賢さと勇気を兼ね備えた戦国隋一の才女(・・)でもあったのだ。


市は藤吉郎が、いずれ織田家に禍をもたらすであろうことを見抜いていたのだ。


そのだがしかし、この猿顔の小男に、お茶々は二度までも命を助けられていたのである。


一度目はその小さな背に背負われて ・・・・


ふうっと、藤吉郎の背中のぬくもりの記憶が、殺気立って荒んでいたお茶々の心を慰めてくれたように思えた。



「ふんっ、だれが太閤の子なぞ産んでやるものか」



今こそ父母の仇を討ってやる、死より酷いやりようで。


そのうち必ず訪れるであろう死の病に取り付かれし太閤が、あとは死を待つばかりとなったそのときこそ、そおっと耳元でこうささやいてやる。



・・・・ あれは、おまえの子ではないわ ・・・・ 、と



あの猿顔の小ずるい小男を、けっして成仏などさせてなるものか。


お茶々は心の中でそう毒づき強がらなければ、今にも泣き崩れてしまいそうだった。


今は亡き父"長政"と母"お市"に、太閤への復讐を誓うお茶々であったが、母との最後の約束が別のものであったことを思い出すのは、非業の死を遂げるほんの少し前のこととなる。


このとき、お茶々十九歳。


好いた男の一人もいても当たり前の年頃でありました。

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