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その二十八 家康暗殺

運命の天正十年(1582年) 安土城下の明智邸


「はてさて、昨今の信長公には困ったものよ ・・・・ 」


家康は調理場での騒動を聞くに及び、自分が危ういところで命拾いしたことを悟った。


信長公は用意した川魚が腐っていたせいにしていたが、接待役のこの家の主に毒でも盛らせようとしたのであろう。


家康は甲斐の武田を滅ぼした労いと称して、ここ安土で信長から饗応を受けていた。


饗応役は今や織田家の筆頭、惟任日向守これとうひゅうがのかみ光秀がその任にあたっていた。


家康は山頂の安土城に至る緩やかな勾配の大手道沿いにあって、最も城郭に近い明智屋敷の客として滞在していた。


日向守が諌めていなければ、己はこの安土を生きて出られなかったかもしれぬ。


この先訪れる堺でも何が待ちうけておるか判ったものではない。


その後家康は信長から堺見物を執拗(・・)に勧められた。


信長の支配下である堺で再度暗殺の計画を実行しようというのであろう。


此度は命を救っていただいた日向守殿は備中高松城へ筑前殿の応援と称して厄介払いされる御様子。


家康は長年同盟関係を続けてきた信長が、同盟の解消を意図しているのではないかと疑った。


同盟の解消は即、徳川の滅亡を意味する。


信長公は徳川の権益を甲斐の穴山梅雪(ばいせつ)殿に引き継がせようとしておるのではあるまいか。


此度の饗応の主賓は、実は梅雪殿の方であって、徳川は口実のための添え物に過ぎなかったのではなかろうか。


家康の疑念は思い過ごしと黙殺してしまうには余りに思い当たる節が多かった。


梅雪殿は滅んだとはいえ、武田の金鉱という財力を引き継いでいる。


徳川にあるのは、今だ武辺一辺倒の三河武士軍団だけである。


天下の平定も目前となった信長公にとっては、無用の長物の同盟軍より、幕府の運営にいくらあっても足りぬ金銀が大事であるは明々白々。 


信長公の"天下布武"がこの安土城に体現されていることは、いずれ諸国、そして朝廷も察知する所となるであろう、

いやすでに朝廷は信長公排除の尖兵を送りこんで、機会を虎視眈々と窺っておるやも知れん。


信長公が明智殿ほどの高潔の武将を、我が暗殺に巻き込もうとしたのは、おそらく踏み絵を踏ませたのであろう。


これから始まるであろう、一大名ごときの暗殺などより遥かに凄まじい、朝廷殲滅作戦への覚悟や如何にと。



・・・・ それはあの(・・)光秀殿には到底受け入れ難きことで御座ろう ・・・・



信長公は朝廷を利用するだけ利用しておいて、邪魔となれば潰しておしまいになるおつもりなのだろう。


しかし、いざ皇統を守られようとするときの天子様のお力を見くびっておられる。


それは武家にとって、命取りになることであるのに。


「ここは再び、近衛(このえ)殿を通じて、徳川の立ち位置を朝廷にはっきりお伝えしておかねばなるまい。


かつて"徳川"を頂戴いたしたときのように ・・・・。


家康は自分の方から織田に三行半(みくだりはん)を突きつける覚悟を始めていた。


自ら手を触れることは叶わねども、誰か(・・)が排除に動くのなら、徳川は沈黙こそすれ邪魔立ては致さぬということよ。


先ずは何も気づかぬ素振りで、堺まで出かけなければなるまい。梅雪殿(・・・)を引き連れて。

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