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その二十七 正親町天皇

「桶狭間で今川軍の塗輿に乗っていたのは義元殿ではない。

海道一の弓取りと云われた義元殿が輿なんぞ使うわけが無かろう。

輿とは貴人の乗り物である。

公家装束を着せられた、わしが乗っておったのよ」


手柄話のはずなのに秀吉の表情は冴えなかった。


「出世が褒美で御座いましたか」、と三成は問うた。


「いやいや、陰謀の手柄に大っぴらに褒美など出せぬものよ。

・・・・ しかしな、御屋形様はすぐに嫁を世話して下さった。

城下でも気立てが良くて器量良しと評判のおねね(・・・)をな。

わしの岡惚れであったのが、御屋形様のお力添えで夫婦となることが叶った」


北政所(おねね)は三成にとっては母も同然であった。


「それでは殿下が初めて正親町(おおぎまち)天皇にお目通りが叶ったのは、いつのことでありましょうか」


「御屋形様が足利義昭将軍を奉じて御上洛なされたおりのもう一つの手土産がわしだ。

特別の許しを得てわしも御所に参内仕った。

(すだれ)の向こうの天子様はお泣きあそばしていらっしゃった。

わしも泣いた。

お取次ぎの宮廷吏も介さずこうおっしゃった。

『事情が許さば高齢の朕に代わり、ここに座していたは其の方であったであろう。許せ』、と。


わしは天皇になぞなりとうもなかったし、ならんで良かった。

御所(あそこ)は戦国の世の様な、血沸き肉踊るようなおもしろきこと無縁の世界である」


「殿下の関白職御就任は正親町天皇のせめてもの(・・・・・)心尽くしだったのでありましょうか」


三成の問いは徐々に次の核心(・・)に迫っていった。


秀吉は答えを少し先に延ばす事とした。


「天子様の御推挙と御聖断がなくば、五摂家専任が慣例の関白職に、武家が就くなどと朝議にさえ上らぬであろう。

後陽成(ごようぜい)天皇の聚楽第行幸とて、先の正親町天皇の強い後押しの賜物であった。

聚楽第はそのためだけにこしらえたようなものよ。

行幸のおり後陽成天皇の御前で又左と家康殿に、豊臣に対して永遠の忠誠を誓わせたは我人生一番の痛快事であった。

徳川殿とて所詮は三河の田舎大名。

聚楽第の煌びやかな絢爛豪華さと天子様の御威光に、腹の底まで圧倒されたはずだ。

・・・・ もう豊臣には到底太刀打ち出来ぬ ・・・・、と。

それが目的じゃ」


「それ故、用済みとなれば、早々にお取り壊しになられたのですな」


「左様、そのほうが豊臣の力すでに天下無敵と世に示せるではないか ・・・・ 」

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