その二十二 忌み子
「いつ加減が悪うなって御殿医が飛び込んでくるやも知れぬゆえ手短かに話すぞ。
わしの父親は、先の天子様であらせられた正親町天皇その人である。
母はその妹皇女の永寿女王であった。
正親町天皇が皇子の頃に父は十八、母は十六でわしは生まれた。
母はわしを産んですぐに身罷われたそうだ。
わしの本当の生年は天文四年と聞いておる。
禁裏の中の禁じられた子である。
この手はその因縁でもたらされた。
小さく、醜く、手は異形の子である。
わしは忌み子として隠された。
母の女官であった大政所が引き取って、公家の伝手がある今川の領内でわしを育ててくれた。
一人でも戦国の世を生きていける様にと、読み書きに乗馬と公家と武家の両方の教養を授けられた。
幼き頃より何事もすらすらと覚えたそうじゃ。
大政所はわしを聖徳太子の生まれ変わりと固く信じておった。
成人すると正体を知るものの居ない尾張に流れることとした。
今川でその噂を聞いておった織田信長なる人物にお仕えしたいと思うてな。
わしは年を偽り、何とか小物として織田家にもぐりこんだ。
見込んだとおり、御屋形様はわしの才にすぐ目をつけられた ・・・・
後は佐吉、おみゃーもだいたい知っておろう」
途方も無き事実に、さすがの三成もしばし言葉を失なった。
しかし、さすがは三成である。
頭の中の太閤記を瞬時に書き換えてしまったようである。
「信長公に出生の秘密を打ち明けられたのですな」
秀吉は頷いた。
「如何にも。天子様なぞ" へ "とも思っておられぬはずの御屋形様が、『藤吉郎、お前は使える』、とたいそう喜ばれた」