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その百五十 予期せぬ差し入れ

「小早川の寝返りについては各方面からの誘い込みが交差し紆余曲折があったのは確かでござろう。

しかし、今後の豊臣にとって小早川はもっとも頼るべき縁戚に御座いますれば、かの者に関わることはお答え出来かねる」


「治部殿の仰せまことにごもっとも。

どうやら小早川を巡る経緯は徳川にとっても治部殿にとっても触れてはならぬことのようで御座いますな。

我ら奥平はそうしたことによくよく縁があるようで御座る」


そうは云っても諦めた様子も無く、信昌は酒の肴らしい包みを解いた。


中から出てきたのは小魚の佃煮だった。


「ご賞味あれ」


三成は箸で一本つまんで口に運んだ。


すると懐かしい味が口中に広がり、香ばしい香りが鼻腔を刺激した。


「これは、・・・・ もしや ・・・・ 」


「如何にも、北政所様の御手製で御座る ・・・・ 」


懐かしい味覚と嗅覚に刺激されて、三成の脳裏にあの懐かしい長浜での少年時代が蘇った。


若く美しいおかか様が、利かん坊の正則が、気難しがり屋の清正がそこにあった ・・・・


「某の為にこれを ・・・・ 」


「何、お役目で御座る。そなた方の御処分を目と鼻の先に居られる北政所様のお耳にお入れせぬ訳には行きませぬので」


「北政所様は何と」


「お言葉は何も ・・・・ ただ、後から姪御様と思しき娘御にこれを包ませて寄越しました」


「今、何と?」


「北政所様と面影の似た、若い娘だったのでつい姪御様かと?」



・・・・ よくぞ ・・・・ 



三成はその娘は間違いなくおいね(・・・)であると確信した。


信昌は更に良い知らせを三成に漏らした


「おそらく治部殿の御懸念は失せましてございましょう。

徳川の名誉に関わることなので表沙汰には致されておりませぬが、先の秀頼様、淀の方様への東軍諸将による戦勝報告の謁見に於きまして、小早川秀秋様が我が主の窮地をお助けなされた由。

これより家康様とて小早川のこと無碍には出来ますまいとのもっぱらの噂に御座います」



・・・・ 何と、秀秋殿がそこまで立ち直られたと ・・・・ 



三成は小早川秀秋の回復の影に北政所とおいねの働きがあったであろうことを察した。


「信昌殿、どうやら小早川については、すでに内府殿も事の真相に気付いておりながら、己の謀略が表沙汰になるのを嫌って歴史の闇に葬り去ろうとされているご様子。

そこもとを歴史の証人にふさわしい御仁と信じて、お話をさせていただいてもよさそうにございまする。

ただし、その前に ・・・・ 」


三成は一つ条件を出した。


「先ずお聞かせ願いたい。なぜ奥平が徳川の家臣団の中でも特異な立ち位置を占めるまでに至ったか、その訳を」


「 ・・・・ けっして人に誇れるものでは御座いませぬゆえ、何卒ご勘弁を」


「信昌殿、某から他に漏れる心配は御座いますまい」


「 ・・・・ 」



信昌は意を決した様子で三成に、奥平の暗い過去を語りはじめた。

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