その百四十五 初陣
初手からお茶々に美味しいところを持っていかれた家康は苦々しい思いを表に出さないのが精いっぱいであった。
・・・・ さすがは信長公の末娘、盆暗揃いの兄達よりよほど天下人の器よ。さては織田家は女の方に才覚が強く現れるのか ・・・・
家康は早く舞い上がった空気を元に戻すべく、且元に議事進行を進めるように目で催促した。
「うおっほん」
場の空気を切り替えるべく且元がまた一つ咳払いをして議事を進めた。
「それではこれより、秀頼様から諸将への戦勝祝いの目録を読み上げまする ・・・・ 」
人間どのようなすばらしい言葉より金品の方が嬉しい。
且元は見事に座の空気を現実に引き戻した。
大蔵方の役人の、ずらずらと続く目録の朗読が延々と続けられた
退屈し始めたのであろうか秀頼が前列の秀秋の方を気にし始めた。
横や後ろの大名達からは、退屈で飽きてきた秀頼が義兄の秀秋と早く遊びたくてうずうずしているように覗えた。
・・・・ そう云えば、つい十二、三年前までは、我ら皆、秀頼様ぐらいの秀秋殿を太閤殿下の後継者と崇めておったものよ ・・・・
・・・・ あのままであれば ・・・・
ようやく事務方による目録の読み上げが終わると、且元は各将に対して、
「さて本日より、徳川内大臣殿が西の丸で再び起居される運びとなり、秀頼君の後見人として政務全般を取り仕切ることとなりましたことを皆様に御報告致しまする」
と締めくくった。
これで仕舞いのはずであった。
一応の建前上、且元が首座のお茶々に他に何かお言葉は御座りましょうやと仰いだ。
お茶々は、「特に ・・・・ 」、と小さくかぶりを振った。
これが合図であった。
それまで、お茶々の横で大人しく座っていた秀頼が急に立ち上がった。