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その百四十一 条件交渉

「茶の替えをお持ちいたしました ・・・・ 」


そういって家康の前に新しい茶を差し出したのはおいね(・・・)であった。


おいねの顔を見た家康は一瞬何がどうなっているのか判らなかった。


そこにいるのは若かりし頃の木下藤吉朗が妻おねねの生き写しであった。


一言も発せられぬ家康を残しておいねはついと下がっていった。


我に返った家康は、「 ・・・・ 今の娘は?」、と聞くのがやっとであった。


おねねは悪戯っぽく笑いながら、「さあ、何でしょうか ・・・・ 」、とはぐらかした。


・・・・ 娘にして若すぎる ・・・・ だいいち、北政所は子を産んでおらぬはず ・・・・ 浅野、いや木下の家の縁者か。


家康には見当がつかなかった。


北政所があの娘にわざわざ茶を持ってこされたのには何がしかの意図があるはず。


家康は気になってそわそわしだした。


家康を散々じらしてから、おねねはおいねについて語った。


「あの娘は長浜(・・)の近郷に暮らす縁者の者に御座いますれば、今は武家の行儀見習いにわたくしが預かっておりまする」


「正月にまかり越しましたときにはおりませなんだな」


「はい、ほんの四、五日前から(・・・・・・・)でありますれば ・・・・ 」


「ほう、四、五日 ・・・・ 」



・・・・ あの娘だ! ・・・・



・・・・ 三成が北政所に遺志を託した人物とは、あの娘に違いない。

北政所の親戚筋では迂闊に手が出せぬではないか。

それに今更何をしても手遅れ。

もはや三成と北政所は情報を全て共有しておる ・・・・



「ふーーーーー」、と家康は大きくため息をついた。


「北政所様、腹の探りあいはこれぐらいにして条件交渉と参りましょう」


「はい」


「三成を助命する替わりに御願いの儀が御座い申す。

北政所様は西の丸をこの家康に譲り渡していただき、御髪(おぐし)を下ろして仏門入りしてくださらぬか」


この条件で家康が失うものは何も無かった。


三成は佐渡か隠岐にでも流しておいてから頃合を見て病死(・・)でもさせれば良い。


「三成の助命など誰が望みましたか?」


「何と、では政所様は何がお望みか。これに及んで徳川は一歩も引き申さぬぞ」


家康が気色ばんだ。


「どうぞ、何なりと。ただし、秀頼に千姫を申し受けたく存じまする。

わたくしの条件はただそれ一点のみにございます」


「 ・・・・ 」、家康は黙り込んだ。


千姫は家康の初孫にして最愛の孫娘である。


目の中に入れても痛くないとはかくのごとくかと思えるほどの可愛がりようだった。


「千姫はまだ四歳に御座りますぞ」


「構いませぬ、豊臣で責任を持って御養育いたしまする」


「しかし ・・・・ 」


「家康殿、わたくしは三成とは違い、豊臣が政権の座に居座り続けることには(こだわ)っておりませぬ。

ただ豊臣が名誉を保ちながら幾久しく続いてくれればそれでよい。

千姫はそのための徳川と豊臣を結ぶ強い絆となりましょう」


おねねは体裁よく"絆"という言葉を使ったが要は人質である。


いずれ秀頼と千姫の間に子が授かれば、もはや豊臣と徳川は抜き差しならぬ縁戚関係となろう。


家康はおねねの想定外の条件提示に困惑した。



・・・・ 三成め ・・・・



家康は折れる覚悟を決めた。


「それが、仏門入りの譲れぬ条件とあらば ・・・・ 」


それで北政所が北条政子(・・・・)とならずば安いものと思わねばならぬ。



しかし、千姫の輿入れは徳川にとって思った以上に高くつくことになるのだった ・・・・

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