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その十四 大谷刑部

「北政所様、あまり長く外におられますとお体が冷えまする、そろそろ中へ ・・・・ 」


そう遠慮がちに声をかけてきたのは、大谷吉継の母、東殿局(ひがしどの)だった。


家康が立ち去った後も庭先からなかなか戻らぬおねねが物思いに耽っていることは察していた、しかし暦は正月である。


取り残された柿の実の向こうの冬の弱日が加茂勢山を越すと、この辺りは急に冷え込むのだ。


「 ・・・・ 東殿、もし三成と内府殿が天下を二分して争うようなこととならば、刑部(ぎょうぶ)殿はどちらに御味方いたすでありましょうか」


おねねは大谷刑部が最近急速に家康に接近していることを知りながらも問うてみた。


東殿局は前触れもなく北政所に難儀なことを問われても、些かも窮した素振りを見せずに答えた。


「我が子ながら吉継は戦場(いくさば)において尋常ならざる力を発揮する武将にございます。

しかしながら、本当にあの者がその力量を発揮するのは政の裏側に於いてでございましょう。

時流と形勢を読んで、事前に策を巡らせる。

謀略、調略、駆け引きなどの交渉事こそが本領にございます。

だからといって、けっして日和見の卑怯者などと思うてくださいますな。

信と義を何より重んじる、まっことの忠義者、剛の者にございます」


それはあらためて問うまでもなく、おねねもよく承知していたことだった。


・・・・ だからこそあの佐吉とは互いに気脈が通じ合う仲なのだろうて ・・・・


おねねは家康の置き残していった言葉を思い返した。


太閤亡き後、やれ内府殿、徳川殿、海道一の弓取りよと、みな我れ先に徳川に(なび)いておるが、いざ豊臣対徳川などと煽り立てられ秀頼が総大将にでも担がれようものならそれまでではないか。


いかに徳川の権勢といっても誰が秀頼に弓ひけようか。


毛利、前田、宇喜多、上杉らの大老たちと、三成をはじめ奉行どもの反徳川陣営は元より、今でこそ徳川に靡いている清正、正則、幸長などの豊臣ゆかりの大名達も、

先を争って馳せ参じ、大坂城に入り切らぬ兵馬で摂津界隈は収集のつかぬほどごった返すであろう。


いかに徳川が六万、七万の軍勢を以ってしても秀頼に指一本触れることなど叶わぬ。


たとえ太閤の子であろうとなかろうと、相手が秀頼(・・)である限りは。



長い静寂がおねねをつつんんだ。



おねねは家康が、自分にどんな役回りを演じさせようとしているのか気づき始めた。

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