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その百三十九 苦難の道

「今後そなたたちを待ち受ける道は苦難に満ち溢れたものとなろう。

そなたらが見習わなくてはならぬのは家康殿のこれまでの我慢強さであろう。

思えば本能寺で信長公(おやかたさま)がお亡くなりになってより実に十八年、

家康殿は天下に手が届くのを一日千秋の思いで待っていたのだろう。

でなくば、病に倒れたとはいえ秀吉がまだ存命のうちからそなたたちの取り込みに走りはしまい。

だがな、家康殿に戦を仕掛けてもけっして勝ち目は無いと思い知れ。

関ヶ原をつぶさに見たそなたたちなら分かるであろう。

天武の才の大谷刑部が如何に戦略を用いても家康殿の政略には勝てなんだ。

そなたらが束になって掛かろうとも結果は同じ、いやそれにすら及ばずまい。

何しろ徳川二百五十万石はまったくの無傷で残ったのだ。

戦後処理で彼我の力の差は更に広がるであろう。

そなたたちは闘志を衣の下に隠して、家康殿に媚び、へつらい、手足となって働き不興を買わないように生き延びるのじゃ。

それは潔く散るよりもつらきことであろう」


おねねの言葉を三人の武将達は心に刻んだ。


「さて、これより内府殿と互角に渡り合ってゆくには官兵衛殿のお知恵が必要と思うておる」


それは大津城の門前で三成が長政に託したことでもある。


「長政殿、おねねが官兵衛殿にくれぐれもお力添えをと申しておったとお伝え下され」


そういっておねねは長政の左手をきつく握りしめた。


長政の心情は複雑であった。


つい最近、やはりこうやって左手をきつく握りしめられたばかりであった。


関ヶ原の功を労う家康本人から ・・・・


すると何を思ったのかおねねの脇に控えていたおいねも長政の空いている右手に(すが)り付いて握りしめてきた。


美しい顔立ちとは不釣合いなごつごつとしたマメだらけの手の平がしっかりと長政の心までも捉えた。


・・・・ どうか、佐和山のお殿様の御遺志を ・・・・


これには長政も参った。


このけっして情には流されない男の心の中にむくむくと熱いものが湧き上がった。


長政が真剣な目で見返すと、おいねはぱっと手をはなした。


「も、申し訳ございません。お殿様に ・・・・ 」、あとは言葉にならなかった。


それを見ていた正則も両の手を差し出してきた。


「ずるいぞ、長政。其の方だけいい思いをしおって」


「おほほほほほ、正則や。ほんとは両方ともおいねににぎってもらいたいのであろう」


「あいや、こちらはおかか様専用でございます」


おねねとおいねは正則、幸長と順にその手を握って頼んだ。



やがて三本木を後にした三人は馬を並べて大坂を目指した。


時間とともに高揚感が薄れてくると三者三様に事の重大さに身が引き締まった。



・・・・ 徳川との十年戦争、いや二十年戦争か ・・・・



・・・・ 内府め、いったいあと何年生きるつもりだ ・・・・



・・・・ 父上にもあの娘を引き会わせたいものだ、さぞかし驚き、もしかすると ・・・・

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